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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)8704号 判決

大阪市中央区安土町二丁目五番五号 本町明大ビル

原告

ハンドハウス株式会社

右代表者代表取締役

西森進

大阪市中央区安土町二丁目五番五号 本町明大ビル

原告

株式会社ケンアンドロン

右代表者代表取締役

西森進

大阪府豊中市西緑丘大塚二一番地の一

原告・反訴被告(以下、単に「原告」という)

西森進

右三名訴訟代理人弁護士

柴山譽之

右訴訟復代理人弁護士

辻野和一

東京都荒川区東尾久六丁目四三番一一号

被告・反訴原告(以下、単に「被告」という)

株式会社ファースト

右代表者代表取締役

関口豊一

右訴訟代理人弁護士

松本泰次

澤田脩

主文

一(本訴について)

1  被告は、原告ハンドハウス株式会社に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成二年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告株式会社ケンアンドロンに対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成二年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告西森進に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成二年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告は、原告ハンドハウス株式会社及び原告株式会社ケンアンドロンの取引先等の第三者に対し、原告ハンドハウス株式会社及び原告株式会社ケンアンドロンによる別紙(一)〈1〉ないし〈4〉の写真のゴリラのぬいぐるみ及び別紙(三)〈1〉ないし〈5〉の写真のブルドッグのぬいぐるみの販売は不正競争防止法に違反している旨陳述してはならない。

5  原告らのその余の本訴請求を棄却する。

二(反訴について)

1  原告西森進は、被告に対し、金一二〇万円及び内金一〇〇万円に対する平成三年一一月一九日から、内金二〇万円に対する平成五年五月一七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告のその余の反訴請求を棄却する。

三 訴訟費用は、本訴、反訴を通じ、これを一〇分し、その一を被告の、その余を原告らの各負担とする。

四 この判決の第一項1ないし3及び第二項1は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の申立て

一  原告ら

1  被告は、原告ハンドハウス株式会社(以下「原告ハンドハウス」という。)に対し、四億六四三〇万円及びこれに対する平成二年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告株式会社ケンアンドロン(以下「原告ケンアンドロン」という。)に対し、一億八八〇〇万円及びこれに対する平成二年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告西森進(以下「原告西森」という。)に対し、一〇〇〇万円及びこれに対する平成二年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告は、原告らに対し、別紙(七)記載の内容の謝罪広告を、見出しはゴシック体活字、その他は明朝体活字でもって、キッズライフ及び繊研新聞の各広告欄に、全五段二分の一、縦一七・五センチメートル、横一九・二センチメートル、四角形スペースで、朝日新聞東京・大阪・名古屋版の各広告欄に、横七センチメートル、縦七センチメートルのスペースで、各一回掲載せよ。

5  被告は、その製造販売するぬいぐるみ商品の織ネーム及び下げ札(タッグ)に別紙(五)の織ネーム目録〈1〉ないし〈5〉記載の表示及び同(六)の下げ札目録〈1〉ないし〈6〉記載の表示を付し、これらの表示を付した織ネーム及び下げ札を付したぬいぐるみ商品を販売し、販売のために展示し、又はぬいぐるみ商品に関する広告、定価表若しくは取引書類にこれらの表示を付してはならない。

6  被告は、右表示のある織ネーム及び下げ札を被告の所有するぬいぐるみ商品の在庫品・半製品から撤去し、右表示のある織ネーム及び下げ札を廃棄せよ。

7  被告は、原告ハンドハウス及び原告ケンアンドロンの取引先等の第三者に対し、別紙(八)の誹謗事実目録記載の内容の陳述をしてはならない。

8(原告西森)

被告の原告西森に対する反訴請求を棄却する。

9  第1ないし第3項につき仮執行の宣言

二  被告

1  原告らの被告に対する本訴請求をいずれも棄却する。

2  (反訴請求)

原告西森は、被告に対し、五六九〇万二一八〇円及びこれに対する平成三年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  第2項につき仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  当事者間に争いのない事実等

1  原告ハンドハウスは、寝装品、袋物等の製造販売を業とする株式会社であり、原告ケンアンドロンは、袋物、婦人衣料品等の製造販売を業とする株式会社である(以下、右両会社を「原告両会社」という。)。原告西森は、原告両会社の代表取締役である。被告は、各種布帛玩具の製造販売を業とする株式会社である(当事者間に争いがない。)。

原告両会社は、原告ハンドハウスが生産部門に重点を置き、原告ケンアンドロンが販売部門に重点を置いてはいるものの、同一の本店所在地を営業拠点として、日本国内各地にそれぞれ別個の得意先を持って営業活動をしている(弁論の全趣旨)。

2  被告は、昭和六二年九月末日(被告の主張)ないし一〇月初め(原告らの主張)、「KING」の名称で別紙(二)〈1〉ないし〈4〉の写真のゴリラのぬいぐるみ(以下「被告商品キング」という。)の販売を始め、また、昭和六三年三月一九日頃、「BULBUL」の名称で別紙(四)〈1〉ないし〈5〉の写真のブルドッグのぬいぐるみ(以下「被告商品ブルブル」という。)の販売を始めた(当事者間に争いがない。以下、被告商品キング及び被告商品ブルブルを総称するときは、単に「被告商品」という。)。

一方、原告両会社は、昭和六三年一月六日、別紙(一)〈1〉ないし〈4〉の写真のゴリラのぬいぐるみ(以下「原告商品ゴリラ」という。)の販売を始め、また、同年六月二七日、別紙(三)〈1〉ないし〈5〉の写真のブルドッグのぬいぐるみ(以下「原告商品ブルドッグ」という。)の販売を始めた(原告西森の供述〔第八回口頭弁論期日〕及び弁論の全趣旨。以下、原告商品ゴリラ及び原告商品ブルドッグを総称するときは、単に「原告商品」という。)。

3  被告は、昭和六三年二月頃、原告ハンドハウスの取引先である松屋百貨店浅草支店に対し、原告商品ゴリラの販売を中止するよう申し入れた(当事者間に争いがない。)。

また、被告は、同年三月三日付内容証明郵便で原告ハンドハウスに対し、被告は被告商品キングの意匠登録出願を昭和六二年七月二七日に受理されているのに、原告ハンドハウスが被告商品キングと全く同一の偽のぬいぐるみを製造して松屋百貨店等で販売しているのは、意匠法、不正競争防止法に違反しているので、直ちに右ぬいぐるみの製造販売を中止するよう警告する旨の警告書を出した(甲第一号証、乙第一二号証)。これに対し、原告ハンドハウスは、昭和六三年三月八日付内容証明郵便で被告に対し、被告主張の意匠登録出願の内容、及び何が不正競争行為に該当するのか不明であり、検討する余地がないので、被告の主張に同意できず、したがって、商品の製造販売は中止できない旨の回答書を出した(甲第二号証、乙第一三号証)。

4  被告は、昭和六三年九月一二日、原告両会社が原告商品ゴリラ及び原告商品ブルドッグを製造販売していることにつき、原告ら三名を不正競争防止法(平成五年法律第四七号による改正前のものをいう。以下同様。)違反の罪で大阪府南警察署に告訴した(当事者間に争いがない。以下「本件告訴」という。)。

その告訴事実は、原告西森は原告両会社の業務に関し、昭和六三年当初より今日までの間に、被告が昭和六二年七月七日に意匠登録出願をした(同月二七日出願番号通知)被告商品キング及び同年一一月一八日に意匠登録出願をした(同年一二月一一日出願番号通知)被告商品ブルブルが動物ぬいぐるみとしては爆発的に売れているのに目を付け、右各ぬいぐるみと全く同一の偽のぬいぐるみを製造販売し商品主体混同行為をなしたものであり、右原告らの所為は不正競争防止法五条二号に該当すると思料するので厳重処罰を求める、というものであったが(乙第三五号証)、大阪地方検察庁検察官は、平成三年五月二八日、嫌疑不十分により不起訴処分をした(乙第五号証の2・4)。

一方、原告らは、同年二月一日、本件告訴につき被告代表者らを誣告罪で大阪地方検察庁に告訴したが、大阪地方検察庁検察官は、同年一二月二五日、不起訴処分をした(甲第一二〇号証)。

なお、被告は、右各意匠登録出願につき、平成元年二月二二日、意匠登録を受けた(登録番号は被告商品キングにつき第七六三三九一号、被告商品ブルブルにつき第七六三三九八号。乙第二、第三号証)。

二  請求

原告らの被告に対する本訴請求は、

〈1〉  被告が原告両会社の製造販売している原告商品ゴリラ、原告商品ブルドッグは被告の製造販売している被告商品キング、被告商品ブルブルの偽物であるとして不正競争防止法違反(商品主体混同行為)で本件告訴をした行為、

これに先立ち、被告が昭和六三年三月三日付内容証明郵便で原告ハンドハウスに対し、意匠法、不正競争防止法違反を理由に原告商品ゴリラの製造販売を直ちに中止するよう警告した行為(後記第三の一1)、

〈2〉  昭和六三年における松屋百貨店浅草支店等に対する虚偽事実の陳述(第三の二1)、

〈3〉  平成三年以降における株式会社そごう等に対する虚偽事実の陳述(第三の三1)、

〈4〉  信用毀損業務妨害罪による原告西森に対する再告訴(第三の四1)

により、原告らは売上げ減少等の損害を被った(第三の五1)と主張して、不正競争防止法又は不法行為に基づき、

原告ハンドハウスにおいて四億六四三〇万円、原告ケンアンドロンにおいて一億八八〇〇万円、原告西森において一〇〇〇万円の損害賠償及び訴状送達の日の翌日(平成二年一一月二九日)から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払い(原告らの申立て第1項~第3項)、及び

別紙(七)記載の内容の謝罪広告の掲載(同第4項)を求めるとともに、

別紙(八)の誹謗事実目録記載の内容の陳述の差止め(同第7項)を求め、

更に、被告が販売するぬいぐるみに付している織ネーム及び下げ札は不正競争防止法一条一項四号の出所地誤認表示又は同項五号の品質誤認表示に該当するとして(後記第三の六1)、右織ネーム及び下げ札の使用の差止め(原告らの申立て第5項)及びその撤去、廃棄(同第6項)を求めたものである。

被告の原告西森に対する反訴請求は、

原告西森が被告の得意先に対し、平成三年三月四日から同年一〇月二七日までの間、被告の製品に着装している織ネーム、下げ札は法律に違反しているから直ちに店から撤去した方がよいなどと申し向け、また、平成五年五月頃、「事実確認依頼書」を送付したことにより、被告は得意先から取引の停止を受けたと主張して、信用毀損業務妨害の不法行為に基づき、五六九〇万二一八〇円の損害賠償及び反訴状送達の日の翌日(平成三年一一月一九日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めたものである(後記第三の七1、被告の申立て第2項)。

第三  当事者の主張

一  被告による本件告訴について

1  原告ら

以下の理由により、原告らに不正競争防止法一条一項一号の商品主体混同行為はないから、被告は本件告訴につき不法行為責任を負うものである。

また、これに先立ち、被告が昭和六三年三月三日付内容証明郵便で原告ハンドハウスに対し、意匠法、不正競争防止法違反を理由に原告商品ゴリラの製造販売を直ちに中止するよう警告した行為も、この段階では未だ意匠登録はされておらず、また原告らに右商品主体混同行為はないから、不法行為を構成する。

(一) 被告商品は、その意匠登録出願日及び販売開始日より前にゴリラ、ブルドッグブーム等によって先行販売されている他社のゴリラ、ブルドッグ製品に比べて、その全体的形態及び各部分、特に形態の特徴的部分である容貌部分に客観的創作価値(新規性)が全く認められず、ブーム便乗的後発販売の必然的類似性ある単なる動物ぬいぐるみであるから、その性質、社会的・歴史的背景、取引実情からみて、本来的に出所表示機能を果たすほどの新規性、特異性、周知性を有していないことは明白であり、また、宣伝、販売態様、販売期間、販売数量、形態の非伝播性、使用商標等の状況からみて、被告商品の形態自体が取引上二次的に商品表示性を取得し、周知性を確立したとは到底いえない。

(1) 被告商品キングの全体的形態(座り形状)及び被告がデザインに苦心したと主張する各部分は、別表(G)及び(G)ノ(二)記載のとおり、その意匠登録出願前に大量に販売されていた先発他社のゴリラのぬいぐるみ製品の全体的形態及び各部分と同一又は類似するものである。全体的形態においても各部分においても多少の差異はあるが、全体の印象を変えるほどのものではなく、微差にすぎない。

ⅰ 被告商品キングの全体的形態(座り形状)については、昭和六〇年頃発売の株式会社つるや人形研究所(甲第九七号証の(三)C・H、(四)〈1〉〈2〉)、昭和六一年七月二五日頃発売のプレーネ株式会社(同号証の(二)〈2〉)、同年一〇月二五日頃発売の株式会社ゆりや工房(同号証の(二)〈1〉、甲第四〇号証)、同年一一月五日頃発売のグンゼ産業株式会社(甲第九七号証の(三)E・F、甲第四〇号証)、昭和六二年三月頃発売の三英貿易株式会社(甲第九七号証の(三)A・B)、同年七月五日頃発売のサンアロー株式会社(同号証の(三)D、(五)〈1〉~〈4〉)の各ゴリラのぬいぐるみ製品、及び刊行物(同号証の(一)イ~ト)掲載の実在のゴリラ(以下、会社名については、「株式会社」の表示は適宜省略する。)

ⅱイ 先端がやや先細りの二段差のある頭部については、つるや人形研究所、ゆりや工房、グンゼ産業の各製品、実在のゴリラ

ロ 大きすぎるぐらい太い眉については、つるや人形研究所、ゆりや工房、グンゼ産業の各製品、実在のゴリラ

ハ 開いて天井を向いている鼻については、つるや人形研究所、ゆりや工房、グンゼ産業、三英貿易の各製品、実在のゴリラ

ニ 「への字」に結んだ口については、つるや人形研究所、ゆりや工房、グンゼ産業、三英貿易の各製品、実在のゴリラ

ホ 胴体に埋もれるようになった顎については、前記各社の製品、実在のゴリラ

ヘ 首のないいかり肩については、つるや人形研究所、ゆりや工房、グンゼ産業、サンアローの各製品、実在のゴリラ

ト リアルで、自由にポーズがとれる長い腕・手については、前記各社の製品、実在のゴリラ

チ 内側に向いた足については、つるや人形研究所の製品

リ 肩幅の広いたくましい背中については、つるや人形研究所、サンアローの各製品、実在のゴリラ

ヌ 安定感のあるどっしりとした尻については、前記各社の製品、実在のゴリラ

ⅲ 特に、被告商品キングとつるや人形研究所の立形ゴリラ(甲第九七号証の(三)H〈1〉〈2〉〈5〉)及び株式会社ココロのキングコング(甲第一三〇号証の〈1〉)との対比は、別表(G)ノ(二)のとおりであり、全体的形態及び各部分の構成要素は類似しており、被告商品キングは新たな特徴を有しない。

すなわち、被告商品キングの座り形状の全体的形態は、つるや人形研究所の立形ゴリラと酷似しており、ココロのキングコングと基本的構成態様において類似している。

各部分の構成要素については、一般に需要者がぬいぐるみを選定するとき、まず正面から前部形態を観察し、それから手で触れて肌ざわりや抱きごこちなどを調べるが、ぬいぐるみが容貌表情部分を有する特殊な製品であることから、需要者の最も注意を惹く部分は容貌であり、その容貌が需要者の選定を決定づける最大の要因である。被告商品キングの容貌部分において、眉は現実には薄くて鋭角のカーブをしているが、ココロのキングコングの眉と構成態様において類似し、配色はつるや人形研究所の立形ゴリラと酷似し、眼はココロのキングコングと基本的に類似し、「への字」に結んだ大きい口はつるや人形研究所の立形ゴリラと酷似し、ココロのキングコングとも基本的に類似し、鼻は両製品と微差は存するものの、意匠全体に別異の印象をもたらすほどの差異ではなく、顎は両製品の顎の形状と同一である。

頭部、首・肩、腕・手、足、背中、尻等についても、両製品と同一又は類似するものである。

(2) 被告商品ブルブルの全体的形態(伏せ形状)及び被告がデザインに苦心したと主張する各部分は、別表(S)記載のとおり、原告西森の経営していた株式会社ロンが昭和四四年から昭和四八年にかけて三〇〇万個以上販売した「スネブル」(甲第八七号証(1)~(3)及び第八八号証の(一)(4)~(6)の伏せ形状のもの一二〇万個以上、並びに甲第八八号証の(一)(1)(2)の座り的立ち形状のもの一八〇万個以上。なお、検甲第一五号証は、原告ケンアンドロンが昭和五六年に約四〇〇〇個販売した「スネブル」である。)の全体的形態及び各部分、並びに原告ケンアンドロンが昭和五三年頃に三〇〇〇枚程度販売した「スネブル」の意匠を表面に表した敷物マット(甲第一二五号証の(二)〈12〉〈13〉)の図形と同一又は類似するものである。細部の部分的形状の差異はあるが、全体の印象を変えるほどのものではなく、微差にすぎない。

右「スネブル」の各部分と被告商品ブルブルの各部分との微差的差異は、昭和四七年頃と昭和六二年頃の時代の変遷による縫製技術水準の差によるものである。

ⅰ 被告ブルブルの全体的形状(伏せ形状)については、甲第八七号証(1)~(3)、第八八号証の(一)(4)~(6)

ⅱイ 黒い目玉の周りに白い円周のある眼については、甲第八七号証(1)~(3)、第八八号証の(一)(1)(2)(4)~(6)、第一二五号証の(二)〈12〉〈13〉

ロ 瞼、八の字の眉毛については、甲第八七号証(1)~(3)、第八八号証の(一)(1)(2)(4)~(6)、第一二五号証の(二)〈12〉〈13〉

ハ 口エラの上に位置した鼻については、甲第八七号証(1)~(3)、第八八号証の(一)(1)(2)(4)~(6)、第一二五号証の(二)〈12〉〈13〉

ニ 大きく膨らんだ口については、甲第八七号証(1)~(3)、第八八号証の(一)(1)(2)(4)~(6)、第一二五号証の(二)〈12〉〈13〉

特に二重の口エラについては、甲第八七号証(1)(2)、第八八号証の(一)(4)(5)

ホ 赤い小さな舌については、甲第八七号証(1)~(3)、第八八号証の(一)(1)(2)(4)~(6)、第一二五号証の(二)〈12〉〈13〉

ヘ 長い耳については、甲第八七号証(1)~(3)、第八八号証の(一)(1)(2)(4)~(6)、第一二五号証の(二)〈12〉〈13〉

ト 地面に平行してすり寄った平たい足については、甲第八七号証(1)~(3)、第八八号証の(一)(4)~(6)

チ 後方に位置した尾については、甲第八七号証の(1)~(3)、第八八号証の(一)(1)(2)(4)~(6)

リ リボンについては、時代によって形状・模様に微差があるが、甲第八八号証の(一)(4)~(6)

ヌ なお、被告商品ブルブルの下顎が下から上に向かって張っている点については、甲第八七号証(1)~(3)

甲第八八号証の(一)(1)(2)(4)~(6)、甲第一二五号証の(二)〈12〉〈13〉は、首の上から糸で下顎を引っ張っているだけの相違であり、印象的には微差にすぎない。この糸を外せば、下顎が張った状態になる。

甲第八八号証の(一)(1)(2)(4)~(6)、甲第一二五号証の(二)〈12〉〈13〉は、首の上から糸で下顎を引っ張っているだけの相違であり、印象的には微差にすぎない。この糸を外せば、下顎が張った状態になる。

また、被告商品ブルブルは、別表(S)ノ(二)記載のとおり、先行販売されているユージン、セキグチ、マイケルズペッツ、つるや人形研究所、麻布の各ブルドッグ製品及び実在のブルドッグの特徴である容貌構成(眼の表情、口エラ、眉毛、下顎、鼻等)を寄せ集めて結合し、単に赤い舌を付加したり耳を長くしただけのものであり、伏せ形状の全体的形態は先行販売されている同表(7)の各製品と同一又は類似するものである。

したがって、仮に被告商品ブルブルが「スネブル」や右各製品の意匠とは別の過程で製作されたものであるとしても、それはあくまで主観的な創作であって、客観的に担保されたものではない。

(3) 被告商品の販売数量について、被告は、被告商品キングは昭和六二年九月末日の発売から原告商品ゴリラが出て売れなくなった昭和六三年二月までの四、五か月の間に合計二万五二〇〇個、被告商品ブルブルは昭和六三年三月一九日頃の発売から原告商品ブルドッグが出て売れなくなった同年七月までの四、五か月の間に約一万二六〇〇個を販売したと主張するが、これを裏付ける証拠はない(右販売数量を基に、小売価格の五〇%をもって被告の売上げとして計算すると約一億三六〇〇万円となるが、これは被告の昭和六二年八月期決算の売上げ約二八億円の約五%となるところ、かかる全体売上げに対する貢献度の高い著名商品は興信所等に報告するはずである。しかるに、有名データバンクの調査報告書には、昭和六二年までの他のヒット商品は明記されているにもかかわらず、被告商品キング、被告商品ブルブルは記載されていないし、昭和六三年度まではさしたるヒット商品もなく売上げ低迷と記載されている。)。

また、被告は、本件告訴状(乙第三五号証)添付の「ブルブル・キングの売上状況」には、被告商品キングを約二二〇〇個、被告商品ブルブルを約三三〇〇個販売したと記載していた(原告西森が平成二年六月頃大阪府南警察署捜査員から確認済みである。)。

ヒット商品と言われる商品は、常に類似的商品の出現という宿命を背負っているが、多少の類似的商品が出現しても強力な宣伝力・人気があることから、それに関係なく依然として販売数量を増加させる傾向にあるものであるから、被告商品が被告主張のように原告商品が出た時点で売れなくなり、以後製造販売を中止したというのであれば、それはまさに被告商品が業界周知のヒット商品ではなく、単なる普通の動物ぬいぐるみ製品であったことを顕著に物語るものである。

なお、原告商品ゴリラは、昭和六三年一月六日の販売開始から同年六月二三日の販売終了までの間に二九五一個売れ(甲第九~第一三号証)、原告商品ブルドッグは、同月二七日の販売開始から同年七月一四日の販売終了までの間に四九六六個売れた(甲第一四~第一八号証)。

(4) 被告商品の宣伝広告について、被告が昭和六三年四月頃から六月頃にかけて月刊キッズライフ、旬刊ファンシーに三回(甲第三八号証)、トイズマガジンに一回(乙第四二号証)宣伝広告を掲載したこと(費用は合計約六四万円)、被告商品キングを昭和六二年九月開催の地域玩具見本市(約一〇二社が出展。そのうちぬいぐるみ業者約三三社)に出品したことは認めるが、昭和六三年二月開催のギフトショー、同年六月の開催の国際東京おもちゃショー、同年九月開催の地域玩具見本市及び翌年度以降の右各展示会に被告商品を出品した事実はない。

乙第二一号証の1・2のパンフレットは平成元年以降に作成されたものであり(したがって、本件告訴の違法性に影響しない。)、乙第二三号証は、雑誌の広告の写しであってチラシではない。乙第二二号証の被告商品キングのチラシの作成、配付の事実も信用できない。なお、展示会に出展した業者がパンフレットやチラシを来場者に配付することなどは、他のすべての業者も行っていることであって、何も特別のことではない。

(二) 仮に被告商品の形態が商品表示として周知性を取得していたとしても、原告商品との間で混同を生じない。

(1) (原告商品ゴリラ)

ⅰ 原告商品ゴリラ(DW-五一六)は、原告西森が、韓国のラッキーゴールドスター社から送られてきたゴリラ製品を基礎として、昭和六二年五月頃から五、六回以上の試作品を経てようやく同年九月二三日に(甲第四九号証のOFFER LG870923)DW-五〇八・五一〇等とともに完成させたうえ、同年一〇月九日、ラッキーゴールドスター社に二〇〇〇個発注した。そして、原告商品ゴリラは、同年一二月三〇日から昭和六三年一月一六日に船積みされ(甲第四九号証のB/L No.BO-2013,KO-0219,OSK801-579)、直ちに入関手続がされ(甲第一八五号証の(一)~(三))、前記のとおり同月六日から同年六月二三日までの間に二九五一個が販売された。

ⅱ 原告西森が創作した原告商品ゴリラは、全体として大人のボスゴリラの自然的風合い、色彩を見事に表現した黒系ブラウンを外観色に使用し、それが眉毛、口に使用された黄色系ブラウン又は眉間に使用された黒系ブラウンと全体としてよく調和のとれた形で配色された結果、最も注意を惹く部分である容貌の表情が大人のボスゴリラの哀愁、内面の優しさを繊細微妙に表現した従来の製品にはない特徴を有している。これに対し、被告商品キングは、外観色が赤系ブラウンであるうえ、目立つ部分である眉毛、口等にパープル色が使用されているため、眉毛、口のみが突出して見る者に強い違和感を抱かせ、子供のチンパンジー的な印象を与えるものであり、その表情及び全体的形態は、つるや人形研究所のゴリラ等従来からあるゴリラ製品の基調を超えていない形態である。

原告商品ゴリラと被告商品キングの形状の相違点の詳細は、以下のとおりである。

イ 原告商品ゴリラは、全体に低く、ふっくらした形態であるのに対し、被告商品キングは、背丈が高く、やや細長い形態である。

原告商品ゴリラの肩部分から胴体及び底部前足に至る長さは、被告商品キングに比べて相当短く丸く構成され、前腹、背中部分、腕も短い。その腕の曲線は、被告商品キングでは、いかり肩で、関節部分から手の部分にかけて内側に鋭角に曲がっているのに対し、原告商品ゴリラではそれより緩やかである。

ロ 頭部形状は、原告商品ゴリラは、眉毛の真ん中から頭部の頂上まで約一三cmで、容貌を含めた頭部が全体的に丸いのに対し、被告商品キングは、眉毛の真ん中から頭部の頂上まで約一六cmで、先端が先細りの二段差あるやや長い形状である。

ハ 見る者の注意を最も強く惹く部分である眉毛については、原告商品ゴリラの眉毛は、厚みが約五・五cmで、緩やかな曲線を描いている厚くて太い目立った形状である(原告西森が創作上最も努力した部分である。)のに対し、被告商品キングの眉毛は、厚みが約三cmと極端に薄く、「への字」を二つ結合したような鋭角の曲線を描いている。

眼の大きさ、配置場所も異なる。

眉間の形状及び面積は、原告商品ゴリラは被告商品キングより狭い。

ニ 口は、原告商品ゴリラでは、強い横張りがなく、その曲線も下方下顎に向かって自然的に先細りしているため、眉間から下顎に至る線が長いのに対し、被告商品キングでは、横張りが強く、眉間から下顎に至る線が短い。

ホ 鼻は、原告商品ゴリラは菱形状の四角形であるのに対し、被告商品キングは左方上方に大きく開いた双葉のような形状である。配置場所も異なる。

ヘ 使用している織物の質、長さについては、原告商品ゴリラは、全体としてハイパルという「こし」があり復元力のある良質のもので、長さも約二八mm~三〇mmのものを使用しているので、毛波、抜糸もなく、色の同一性をよく保持しており、眉毛・口・手形・足首にも約一五mmの長さの良質のハイパルを使用しているのに対し、被告商品キングは、全体として約二〇mmのハイパルを使用しているので、艶、「こし」、復元力がなく、毛波、抜糸が容易で色の同一性が保持できず、また、眉毛・口・手・足首に約一〇mmの「こし」のない安価なボアを使用しているので、少し曲げると下地の白糸が見える。

(2) (原告商品ブルドッグ)

ⅰ 原告商品ブルドッグ(KS-一二)は、原告西森が以前経営していた株式会社ロンが約三〇〇万個以上販売した「スネブル」又は原告ケンアンドロンが昭和五六年頃に約四〇〇〇個販売した「スネブル」(検甲第一五号証)を基礎として、昭和六二年五月頃から九月頃にかけてラッキーゴールドスター社との間でこれと同一性のある「スネブル」を六、七点完成させ(甲第四九号証のOFFER LG870923のDW-一四・四一)、同年一一月三日頃までにこの中からサイズを大きくしたものをDW-五〇九・五一一として再度完成させ、同月六日にそれぞれ二〇〇〇個、一〇〇〇個をラッキーゴールドスター社に先行発注する(甲第四九号証のOFFER LG871103 ORDERNo.7)と同時に、右サンプルを鮮京に渡して同年一二月から昭和六三年二月初めにかけて原告商品ブルドッグ(KS-一二。甲第一八九号証の(一)~(四))を完成せしめ(甲第四九号証のOFFER SHEET TDSO-62,TDSO-212)、昭和六三年三月一〇日に二〇〇〇個、同年五月二五日に三〇〇〇個鮮京に発注した(甲第四九号証のSALES CONTRACT TDSS-88102,TDSS-88104 CERTIFICATE OF SALES)。そして、原告商品ブルドッグは、昭和六三年六月二二日から七月一日までの間に五〇〇〇個船積みされ(甲第四九号証の。B/L No.BJOS86-SO757,BOL-17,BOL-26)、直ちに入関手続がなされ(甲第一八五号証の(七)~(九)の輸入税申告書)、前記のとおり同年六月二七日から七月一四日までの間に四九六六個販売された。

ⅱ 原告商品ブルドッグは、ブルドッグのアンバランス性と子犬の可愛らしさをミックスした表情に特徴のあるスネブルを基礎としたものであって、全体色がグレーで、眼・眉毛・口エラは黒系ブラウン、下腹は純白であるのに対して、被告商品ブルブルは、全体色が淡いブラウンで、眼・眉毛・口エラはブライトブラウン、下腹はクリーム色であり、唯一黒目のみ同一である。

原告商品ブルドッグと被告商品ブルブルの形状の相違点の詳細は、以下のとおりである。

イ 背中を上から見ると、原告商品ブルドッグは直線的な胴長形状であるのに対し、被告商品ブルブルは尻尾から前足の付け根に至る線が末広がり形状で、全体の長さも短い。

ロ 下腹についても、原告商品ブルドッグはスマートで長いのに対して、被告商品ブルブルは横腹が広くて長さが短い。

ハ 下顎は、原告商品ブルドッグに比べて被告商品ブルブルが大きい。

ニ 前足は、原告商品ブルドッグが通常の曲線を有する形状であるのに対し、被告商品ブルブルは筋肉隆盛型である。

ホ 口エラは、原告商品ブルドッグでは、両端部分の縦の幅が約四cmと短く(幅狭)、上部曲線の全長が約二〇cmとやや細長い形状であるのに対し、被告商品ブルブルでは、両端部分の縦の幅が約六cmであり(幅広)、上部曲線の全長が約一九cmである。

ヘ 両製品は、頭部マチの形状が長さ、横幅において相違し、必然的に頭部側面形状も相違している。

ト 耳は、原告商品ブルドッグでは長さ約一〇cm、中央部分の横幅約六・五cmであるのに対し、被告商品ブルブルでは長さ約一一・五cm、中央部分の横幅七・五cmである。

チ 鼻は、原告商品ブルドッグが被告商品ブルブルより小さく、平均的サイズで、単なる黒色であるのに対し、被告商品ブルブルは頂上から下方にかけて長く、「ひょっとこ型」で、スモークブラックである。

リ その外、両製品は、眼の周りの白いフェルトの形状、眉毛等の微妙な個所が相違する。

ヌ 原告商品ブルドッグは、韓国で一番良質とされるボンネルと称せられる織物で、長さ約一五mmのものを使用しているので、パイルに「こし」と復元力があるため毛波が立たず、色の同一性が保持されるのに対し、被告商品ブルブルは、ボアと称せられる織物より少し質が上の織物で、長さ約一七mmのものを使用しているので、パイルに「こし」と復元力がないため触ると毛波が立ち、色の同一性が保持できない。

(3) 原告商品には、会社名・電話番号・品質表示を記載した織ネームを通常の取付場所である尻等に付していること、原告商品ゴリラについては、特別に、HAND HOUSEと大書した特大の包装袋を使用していること(甲第五一号証)、百貨店の売り場では演出用の巨大ゴリラ等のぬいぐるみ製品及び原告ハンドハウスのロゴ付バッグと一緒に原告両会社の製品を集めてコーナー販売していること、元来自他商品識別力に乏しく、活発な宣伝広告は行われないぬいぐるみの「ある特定製品」を一般消費者が記憶するのは皆無であること、被告商品は高額であるため、保護者等が慎重に商品選択をしていることから、一般消費者は、各商品の機能面、価格等に着目して商品を選択し、織ネームの表示、商標等によって商品を識別しているのであって、被告商品を購入するつもりであるのに誤って原告商品を購入したり、被告と原告両会社が経済的に関係のある会社と誤認混同して原告商品を購入するというような混同が生じるおそれはない。

取引者についても、原告両会社は昭和五三年頃から昭和六二年頃にかけて全国一円の大手百貨店、量販店、専門店の約二〇〇社(約五〇〇〇店舗)と多部門の取引をしていてその名声が知れ渡っており、被告と全く関係のない会社であることを取引先が十分認識していたから、原告両会社が被告と何らか資本関係があると誤認して原告両会社に発注するというような広義の混同が生じる余地はない。また、大手小売店との商談はあくまで現物を相手方担当者に見せ、商品台帳(甲第二一号証)を交付したうえでの商談であり、かつ、発注は、原告両会社名・取引口座番号・商品名・商品番号・小売価格・納入価格・取引部門番号を明記した発注書によるものであり、原告商品と被告商品とはこれらが全く相違するから、原告両会社の商品であることを認識したうえでの取引であること、顧客の信用を重んじる百貨店等の大手小売店が、一般消費者に誤認混同を生ぜしめるような類似品を販売しないのは当然のことであるから、原告両会社と取引をした大手小売店は、原告商品と被告商品との間に混同の生じるおそれがないと判断したうえで取引をしたものであること、真に被告商品がヒット商品であるならば、既に高価格、高マージンの被告商品を扱っている同じ大手小売店が、信用を失墜させてまで、低価格、低マージンの宣伝力のない後発の類似品を取り扱わねばならない必然性は全くないことから、被告商品を発注するつもりなのに誤認混同して原告両会社に発注するということはありえない。

(4) 甲第二一号証は、原告両会社からラッキーゴールドスター社に対して最終的発注をした昭和六二年一二月二〇日頃に作成されたものであり、これが原告両会社の取引の手段として現実に使用していた正式の台帳であって、特定社員によって唯一作成された乙第四号証は、原告両会社の正式の台帳ではない。

被告は、甲第二一号証は昭和六二年一〇月より前に作成されたものである旨主張するが、甲第二一号証には、昭和六二年一一月六日頃から同年一二月二〇日頃にかけて原告両会社とラッキーゴールドスター社との間で完成され、かつ発注された製品中から追加発注製品を除いたDW-五〇九、五一一(但しNo.1記載商品)、五〇一~七、五一七、七七二、七七三、七七五、五二一、五一一(但しNo.2記載商品)など一五種類の新製品が記載されているから、右被告の主張は理由がない。被告の指摘する「ぬいぐるみ販売企画台帳 自昭和六二年一〇月 至昭和六三年四月」との表示は、同期間においてこれに記載された製品が発注され、かつ取引先からの受注が現実的にも可能であるとの包括的観点から、わざわざ「企画販売台帳」としたものであって、単に販売期間のみを意味するものではない。

被告は、乙第四号証は、被告が松屋百貨店浅草支店から入手したものであるから、その成立について信用性が認められるとするが、理由がない。すなわち、乙第四号証には、被告が同店から購入したという肝心の検乙第二号証の1のゴリラ製品(原告商品ゴリラ)が掲載されていない。また、被告が右検乙第二号証の1(原告商品ゴリラ)を購入した以前及び同時期の頃、すなわち昭和六三年一月一六日から同年二月一二日頃にかけて、同店から原告両会社に対して発注された製品(商品番号・売価・発注原価を指定して、数種類が同時に発注された。)が、甲第二一号証にはすべて掲載されているのに対し、乙第四号証には、原告商品ゴリラ(DW-五一六)の外、DW-五八〇・二四八九などの製品が掲載されていないばかりか、DW-五〇八・五〇九は掲載されてはいるものの、実際には売価(上代)が三五〇〇円、発注原価(下代)が二四五〇円(売価の七〇%)であるのに、売価が三九〇〇円と表示されているから、発注原価も必然的に二七三〇円となり、したがって、乙第四号証は、原告両会社と同店との実際の商取引に使用されたものでないことが明らかである。同様に、他の取引先である株式会社丸広百貨店、株式会社十字屋、株式会社西友、株式会社横浜そごう等から原告両会社に対する発注品のすべてが甲第二一号証に記載され、かつ、その売価も合致しているのに対し、乙第四号証には、大部分が未掲載であり、かつ、DW-五一一、五〇八、五〇九、五一〇などの売価も相違しているのである。取引先から実際に受注した製品又は韓国商社に発注済みの製品が商品台帳に全く掲載されていなかった場合、これら製品の社内での入出荷業務及び社外での倉庫業者による入出荷製品の検品、出荷業務などがたちまち拠り所をなくして遂行不能に陥ることは明白である。

(三) 仮に被告商品の形態が商品表示として周知性を取得しており、原告商品ゴリラが被告商品キングに、原告商品ブルドッグが被告商品ブルブルにそれぞれ類似しているとしても、原告両会社は、以下の理由により、原告商品につき不正競争防止法二条一項四号の先使用権を有するものである。

(1) 原告商品ゴリラについては、原告両会社は、前記のとおり、被告商品キングの販売開始(昭和六二年一〇月初め)より前の同年九月二三日に完成させ、かつ被告商品キングの販売開始日とほぼ同時期の同年一〇月九日にラッキーゴールドスター社に二〇〇〇個発注済みであり、現実に通常の製造期間約三か月を経た後にこれを販売したものであるから、原告両会社は、右発注時点で外的、客観的に認識される態様で原告商品ゴリラの販売の事業の準備をしていたものである。

(2) 原告商品ブルドッグについては、原告両会社は、前記のとおり、被告商品ブルブルの販売開始(昭和六三年三月一九日頃)より前の昭和六二年五月頃から昭和六三年二月初めにかけて企画、完成し、同年三月一〇日に発注済みであり、かつ、これと類似する「スネブル」を被告商品ブルブルの意匠登録出願日及び販売開始前から発注・販売済みである。

(四) 被告商品の形態自体が周知の商品表示に該当するか否か、これと原告商品との間で混同が生じるか否かの判断は、専門的知識を要する法的判断であるから、特に相手方が致命的打撃を受けることが必須の告訴をする際は、十分調査検討を尽くしてしかるべきである。

かかる事案について、民事上の救済なくしていきなり本件告訴をして、かかる事案に精通しているとはいえない捜査機関に救済を求めたこと自体、大いに疑問を感じざるをえない。被告は、本件告訴により、捜査機関をして特定人(原告ら)に特定の犯罪行為(不正競争防止法違反)があると疑わしめ、その判断を誤らせ、遂に捜査開始という結果を招来せしめたものであって、責任を免れない。

被告は、本件告訴の受理後は捜査に口を挟むようなことは一切していないと主張するが、捜査は当然、被告の告訴事実や資料をもって開始され進行してゆくものであって、被告の関与なくして進むものではない。

2  被告

被告商品は、いずれも取引業者はもちろん需要者によっても被告の商品であると認識され、周知性を獲得しており、原告商品は被告商品に酷似しているから、本件告訴は正当であり、不法行為は成立しない。

(一) 被告商品は、いずれも被告会社社長の関口豊一がデザインし創作したものであって、その苦心の点は以下のとおりである。

(1) 被告商品キングは、類人猿であるゴリラの雄に人間の父親が持っているたくましさと威厳を表現させるべく、動物園に度々行って観察し、種々試作を繰り返し、布地の選択、配色に苦慮し、それぞれ試作をして各部分部分を決定し、またその総合の調和をとるのに試行錯誤を繰り返し、非常な苦心を重ねて、約一年をかけて製品化したものである。そのオリジナル性が認められたからこそ、意匠登録が受けられたのである。

イ 頭部は、従来のゴリラの頭部が丸みを帯びていたのに対し、段階をつけることによって力強さを表現した。

ロ 眉は、たくましさを表すために、顔面に比較して大きすぎるぐらい太くした。

ハ 鼻の穴の表現に苦労した。

ニ 口は、父親の威厳を表すために「への字」にした。

ホ 顎は、威厳を表現するために、胴体に埋もれるようにした。

ヘ たくましさを表現するために、首をなくし、頭部から直接肩を出し、いかり肩にした。

ト 腕・手は、力持ちということを表現するために、先に行くに従って太くし、また、自由に動かしてポーズがとれるような工夫をし、掌を内側に曲げ、両足の中に入れられるようにして動きを出した。

チ 足は、手とのバランスをとることに苦心して、外向きではなく内側斜めにした。

リ 背中は、頼り甲斐のある力強さを表現するために、頭部に比べグンと広くした。

ヌ 尻は、安定感を持たせドッシリしたものにするため、凹みを持たせず、平らに広く大きくした。

(2) 被告商品ブルブルは、グロテスクな犬であるブルドッグを可愛らしく表現し、飾り物としてだけではなく、クッション化を念頭に製作を思いついたものである。ブルドッグをぬいぐるみ、クッション化するのは至難であり、何人も思いつかないものである。クッション化のために、頭と胴体を同一の大きさに平行にしてバランスをとることは特に難しく、初めての試みといえる。そのオリジナル性が認められたからこそ、意匠登録が受けられたのである。

イ 目は、白眼を入れるにもその角度によって可愛らしさが違い、黒眼との大きさのバランスを考え種々試作して決定した。

ロ 瞼は、ユーモラスにするために、あえて入れた。

ハ 鼻は、顔全体とバランスをとるのに非常に苦心した。

ニ 口は、ブルドッグのイメージを出すために、あえて二重にした。

ホ 舌は、明るさを出すために、顔の茶色に赤いベロをつけたものであり、この配色についても種々試作して決定した。

ヘ 耳は、ブルドッグは短いのが普通であるが、可愛らしさを表すためとクッション化のために、広く長くした。

ト 足は、クッション化のために、がに股にした。

チ 尾は、クッション化を前提としたので、やわらかくし邪魔にならないように小さくした。

リ リボンは、可愛らしさを表すために、特別に注文して大きくした。

色柄についても苦心した°

(二)(1) 被告は、被告商品キングについては、昭和六二年九月末日の発売から、原告商品ゴリラが出て売れなくなった(以後製造販売を中止した)昭和六三年二月までの四、五か月の間に、Mサイズ(上代一万円)を初回二四〇〇個、二回目四八〇〇個の合計七二〇〇個、Sサイズ(上代五〇〇〇円)を一万四四〇〇個、Lサイズ(上代二万円)を三六〇〇個製造し、その全部を取引先に納入した。

この四、五か月間での合計二万五二〇〇個に及ぶ販売数は、キャラクター商品とは異なる一般プロパー商品としては、爆発的な売行きというべく、まさにヒット商品である。

(2) 被告は、被告商品ブルブルについては、昭和六三年三月一九日頃から、原告商品ブルドッグが出て売れなくなった(以後製造販売を中止した)同年七月までの四、五か月の間に、Sサイズ(上代二五〇〇円)を初回、二回目とも三六〇〇個の合計七二〇〇個、Mサイズ(上代五〇〇〇円)を三六〇〇個、Lサイズ(上代一万円)を一八〇〇個製造し、その全部を取引先に納入した。

この四、五か月間での合計一万二六〇〇個に及ぶ販売数は、被告商品キング同様、キャラクター商品とは異なる一般プロパー商品としては、爆発的な売行きというべく、まさにヒット商品である。

(三) 被告は、次のとおり被告商品の宣伝に努め、取引業者及び需要者に周知させた°

(1) カラー写真入りのパンフレットやチラシを作成した(乙第二一号証の1・2、第二二、第二三号証)。

(2) 毎年秋の地域玩具見本市(北海道、東北、東京、名古屋、大阪、中・四国、西日本の全地域)、毎年六月開催の国際東京おもちゃショー(平成元年までは東京晴海で、平成二年からは幕張メッセで開催。一般にも公開され、入場者数は一〇万人前後)、昭和六三年二月に東京晴海で開催されたギフトショー(期間中の入場者数は一三万人余)に出品しているが、被告商品の製作直後、右各見本市に被告商品を出品し、一万枚に上るチラシを配付した(乙第二五、第三一、第三三号証)。

(3) 被告商品ブルブルにつき、月刊キッズライフ、トイズマガジンという業界誌に広告を掲載した(乙第四一、第四二号証)。

(4) 社団法人日本玩具協会主催の玩具デザインコンクールにも出品している。

(四)(1) 原告西森とラッキーゴールドスター社との間でぬいぐるみをやろうじゃないかという話が出たのは昭和六二年四月、五月とのことであり(原告西森の供述)、原告両会社が原告商品ゴリラを発売したのは昭和六三年二月であるから、その間僅か一〇か月しかない。従業員が五、六名にすぎない規模の原告両会社において、しかも、デザインの知識や経験に乏しい原告西森が、昭和四八年に原告西森が代表取締役をしていた株式会社ロンが倒産してからぬいぐるみの仕事につき一四年ものブランクがありながら、右のような早業をするのは、他人(被告)の物を真似る以外にできることではない。

(2) 原告両会社は、被告商品キングが発売されるや、これをそのまま模造して、原告商品ゴリラとして発売したことは明らかである。

ⅰ まず、被告商品キングと原告商品ゴリラとを並べて比較すれば、その大きさ、形状は同じであり、前、横、後のどこから見ても酷似していて見分けがつかない(乙第四〇号証)。

ⅱ 部分的な特徴についても、両製品は酷似している。

すなわち、座り型で、尻は下を平たくしてどっしりと座った形状が一致している。

頭から顔の全体的な恰好、くぼみの外、でこ、眉毛、眼、鼻、口に至るまで同じであり、腕は前に出していて、長さ、太さなどその特徴はまるで同じである。

後頭部、肩、背中、尻などの後姿も全く同じである。

ⅲ 更に、型紙を合わせてみても、両製品の頭、腕、尻の各特徴部分は見事に一致している。ただ、中に入れる詰め物と詰め方、技術等によって生じる差異があるにすぎない。

(3) 原告商品ブルドッグの企画、製造等に関する原告西森の供述は、極めて曖昧であり、虚偽である。

(4) 原告両会社は、被告商品ブルブルが発売されるや、これをそのまま模造して、原告商品ブルドッグとして発売したことは明らかである。

ⅰ まず、被告商品ブルブルと原告商品ブルドッグとを並べて比較すれば、その大きさ、形状は同じであり、前、横、後のどこから見ても酷似していて見分けがつかない(乙第四〇号証)。

ⅱ 部分的な特徴についても、両製品は、頭、顔、眼、鼻、口、耳、胴、手足、尻尾等に至るまで、大きさ、形状などが全く同じであり、首のリボンまでも、色は異なるが形状は類似している。

ⅲ 更に、被告商品ブルブルの型紙は、その特徴部分ともいうべき胴体、前足等が原告商品ブルドッグの型紙に合致するから、原告商品ブルドッグは、被告商品ブルブルをそのままバラして型に取ったものである。

(五)(1) 原告らは、甲第二一号証が原告両会社の取引の手段として現実に使用していた正式の台帳であり、特定社員によって唯一作成された乙第四号証は、原告両会社の正式の台帳ではない旨主張したうえ、原告商品ゴリラは甲第二一号証掲載のとおりDW-五一六であり、DW-五一六は甲第四九号証記載のとおり昭和六二年九月二三日には既に完成していた旨主張し、また、原告商品ブルドッグは商品番号KS-一二であるとし(根拠となる証拠はない。)、これに先行する商品は甲第二一号証掲載のDW-五〇九・五一一であり、右DW-五〇九・五一一は甲第四九号証記載のとおり昭和六二年一一月六日に発注していた旨主張するが、乙第四号証は、被告が松屋百貨店浅草支店から入手したものであるから、その成立について信用性が認められるのに対し、甲第二一号証は、甲第四九号証のOFFER等に合わせて本件告訴事件や民事訴訟のために作成された疑いが濃厚であり、全く信用できない。

(2) 乙第四号証によると、原告商品ブルドッグの先行商品というDW-五〇九はナカジマコーポレーションの「ブルカポネ」の盗作であって、座り型であるのに、甲第二一号証のDW-五〇九は伏せ型である被告商品ブルブルの盗作であるから、同じ原告両会社において二つの明らかに異なる商品に同じ商品番号を付けていることになり、商品番号に特定性がない。

また、乙第四号証によると、DW-五一一は同号証のDW-五〇九と同じものの(小)であるところ、甲第二一号証ではDW-五一一として右の商品とは異なり互いにも全く異なる二つの商品が掲載されているから、同じ原告両会社において三つの明らかに異なる商品に同じ商品番号を付けていることになり、商品番号には特定性がない。

(3) 原告西森は、乙第四号証は社員が自分用に作った台帳であるから間違っても仕方がない旨供述するが、前記のとおり正式の台帳であるという甲第二一号証自体の中にDW-五一一として二つの異なる商品が掲載されている始末である。

また、甲第二一号証は、その表紙に「ぬいぐるみ販売企画台帳 自昭和六二年一〇月 至昭和六三年四月」と明記されているから、事の性質上、昭和六二年一〇月より前に作成されたものとなるはずである。一方、乙第四号証は、昭和六二年一一月二一日付繊研新聞が綴じ込まれているから、同日以降の間もない頃に作成されたものと推認される。そうすると、もし甲第二一号証が正式の販売企画台帳であったというなら、なぜ、既にこの正式の販売企画台帳があるにもかかわらず、乙第四号証のようなものを社員が勝手に作成して、しかも得意先の百貨店にまで配付したのか、到底理解できないところである。

そもそも、原告両会社は、従業具が僅か五、六名で、商品の企画、百貨店やスーパーに対する販売、得意先との交渉はすべて原告西森一人が取り仕切っており、営業マンは原告西森一人だけであるとのことであるから、乙第四号証のような台帳を社員が原告西森に無断で作成し、百貨店に持ち込むことなど考えられない。しかも、乙第四号証は、商品写真が比較的鮮明であるのに比べ、甲第二一号証は、商品写真が極めて不鮮明である。

(4) 甲第四九号証(主として韓国の企業であるラッキーゴールドスター社及び鮮京との間の取引関係書類、出荷関係書類等)についても、原告らは、これを根拠にあたかも右両企業の本社と直接取引をしたかのように主張するが、右両企業は、いずれも日本に現地法人であるラッキー金星ジャパン株式会社、鮮京ジャパン株式会社を有しており、しかも、ラッキー金星ジャパン株式会社は原告両会社と地番まで同じ住所に、鮮京ジャパン株式会社は原告両会社と至近距離にそれぞれ大阪支店を設けているのであるから、原告両会社が、右両企業と取引をする場合、日本の現地法人を通して取引をするのが国際的商品取引の基本であって、日本の現地法人を差し置いて直接韓国の本社と取引をすることはありえない。

(六) 以上のように、原告らの原告商品ゴリラ及び原告商品ブルドッグの販売は、商品主体を混同させる行為であり、不正競争防止法に違反すると思料される。被告は、自己の商品上の権利を守るために、原告らの右違反行為について処罰を求めるとともに、今後の違反を防止するために、やむなく本件告訴に及んだものである。

原告西森の供述によれば、本件告訴により、原告西森は平成元年初めから八月頃までの間警察の取調べを二十数回受け、原告らの取引先であるダイエー等についても事情聴取がなされたとのことであるが、そうであれば、そのことは本件告訴事件がそれだけの捜査の必要性があったことを物語っており、本件告訴が正当であったことを裏付けるものである。一般に告訴は捜査の端緒となるにすぎず、捜査の必要性の有無・程度は捜査機関が独自に判断するものであって、本件告訴事件のような事案については警察は容易に告訴の受理や捜査をしようとしないのが実情であり、しかも、被告は本件告訴の受理後は捜査に口を挟むようなことは一切していないのであるから、もし本件告訴が不当なものであったなら、警察は当初から問題にもしなかったものと思われる。

そして、本件告訴に対する不起訴処分の理由は「嫌疑不十分」であり、原告らが本件告訴が誣告罪に当たるとしてなした被告代表者に対する告訴も、不起訴処分に終わっているのである。

(七) 被告が、本件告訴に先立ち、昭和六三年三月三日付内容証明郵便で原告ハンドハウスに対し、原告商品ゴリラの製造販売を直ちに中止するよう警告したのは、被告が後記二2(一)の経緯で同年二月中頃、松屋百貨店浅草支店に行って、原告商品ゴリラを何とか撤去していただきたい旨願い出たところ、同店では、当事者同士で話し合ってくれということで取り合ってもらえなかったからである。

二  昭和六三年における松屋百貨店浅草支店等に対する虚偽事実の陳述について

1  原告ら

(一) 被告は、昭和六三年一月末日頃から同年二月頃にかけて、松屋百貨店浅草支店に再三再四赴き、「原告商品ゴリラは被告が意匠登録出願をしている被告商品キングの偽物であり、かかる製品を販売する行為は意匠法、不正競争防止法違反であるから直ちに撤去せよ。さもないと原告ら同様、同百貨店も告訴する。」旨を同店の階長及び柳瀬課長に陳述した。

右行為は、原告らが他人の意匠権侵害及び不正競争防止法違反の偽物製品を販売している悪質な業者であるとの印象を取引先に与える行為であるから、原告両会社の営業上の信用を害する行為であり、また、被告商品キングの形態が不正競争防止法によって保護される商品表示に該当しないことは前記のとおりであり、被告商品キングについての意匠権は未だ登録されていなかったのであるから、客観的事実に反する虚偽事実の陳述流布行為に該当するものである。

そして、右行為が必然的に同店と原告両会社との取引の停止を招来するものであることはいうまでもない。

(二) 被告は、また、昭和六三年八月六日から同月二五日にかけて、株式会社そごうホップ、株式会社西武百貨店、寺内株式会社、株式会社ペリカンの各担当者に対し、「業界でもヒット商品の一つとして数えられており、偽物が出回るということは業界にとって大変迷惑なことであり、厳重なる取締りをお願いする次第である」旨の証明書(乙第七号証の1~4)を作成するように依頼した。

被告は、右各証明書を添付して本件告訴をしたものであるが、右証明書作成依頼の行為は、取引先担当者に対し、原告両会社が他人のヒット商品に便乗してその偽物を販売しているので刑事告訴される悪質な企業である旨の印象を強く与えるものであり、原告両会社の信用を著しく害するものである。

2  被告

(一) 被告が昭和六三年一月末日頃から同年二月頃にかけて松屋百貨店浅草支店に再三再四赴き、原告ら主張のようなことを同店の階長及び柳瀬課長に陳述したことはない。

真実は、以下のとおりである。すなわち、被告は、昭和六三年二月の一〇日前頃、松屋百貨店浅草支店の売場で、被告商品キング(一万円)と並べてこれに類似する原告商品ゴリラが三五〇〇円で売られているのを発見したので、これを購入し、被告商品キングと比較したところ、被告商品キングの模造品であることが分かった。そこで、被告は、同月中頃、右松屋百貨店浅草支店に行って、被告商品キングは意匠登録の出願をしていて、近く登録になる自信もあるが、原告商品ゴリラのような模造品を扱われては被告商品キングが全然売れなくなるので、右模造品を何とか撤去していただきたい旨願い出たところ、同店は、当事者同士で話し合ってくれということで、取り合ってもらえなかった。

(二) 原告らのその余の主張は争う。

三  平成三年以降における株式会社そごう等に対する虚偽事実の陳述について

1  原告ら

(一) 被告は、平成三年三月頃、株式会社そごう神戸店に対し、甲第一〇六号証(被告が取引先に頒布した文書)、乙第四号証、乙第六号証の1~4、意匠登録原簿謄本、原告西森の倒産歴事実・公正取引委員会の審査結果・原告西森を業務妨害罪で告訴する旨の告訴事実等に関する各資料を提示して、原告らにつき、「告訴当時意匠登録出願中であったが、現に登録済みの『キング』『ブルブル』の偽物を間違いなく販売していたとして告訴した会社の代表者である原告西森は、ナカジマコーポレーションの『ブルカポネ』等の他社製品の偽物を販売している偽物販売の常習犯であるにもかかわらず、ファーストの取引先各位に対して、ファーストの製品に使用している織ネーム、下げ札表示は法律に違反しているのになぜ販売するのか、と不当な抗議を執拗にしている、倒産歴のある叩けばいくらでもほこりの出る悪質な者であるので、近々警察に告訴するつもりである」旨を陳述した。

また、被告は、平成三年三月頃から同年一一月末日頃までの間、乙第九号証(枝番省略)の各供述書を作成するために接触した左記の取引先二六店に対し、右と同様のことを陳述した(末尾の数字は乙第九号証の枝番)。

〈1〉名鉄百貨店(1の1・2)〈2〉平和堂(2の8)、〈3〉大丸京都店(2の10)、〈4〉高島屋日本橋店(3の2)、〈5〉そごう有楽町店(3の4)、〈6〉そごう船橋店(3の5)、〈7〉東武百貨店(3の6)、〈8〉西武百貨店(3の7)、〈9〉三越(3の8)、〈10〉大丸東京店(3の9)、〈11〉岩田屋(4の1)、〈12〉井筒屋(4の2)、〈13〉黒崎そごう(4の3)、〈14〉山形屋(4の4)、〈15〉寿屋(4の5)、〈16〉福岡玉屋(4の6)、〈17〉西友(5の1)、〈18〉西友光ヶ丘(5の2)、〈19〉忠実屋(5の3)、〈20〉ダイェー(5の4)、〈21〉丸広百貨店(5の5)、〈22〉イトーヨーカ堂(6の1)、〈23〉エトワール海渡(7の1)、〈24〉ハロマック(8の1)、〈25〉京王百貨店新宿店、〈26〉そごう横浜店

(二) (乙第六号証の1~6の各証明者に対する行為)

(1) 被告は、平成三年七月頃から八月頃にかけて、

株式会社ナカジマコーポレーションに対し、乙四号証掲載のDW-五〇九・五一一は同社の「ブルカポネ」の盗作品である旨を(乙第六号証の1及び1の2)、

株式会社サンアローに対し、DW-五〇二は同社の「マック」の盗作品である旨を(同号証の2及び2の2)、

三英貿易株式会社に対し、DW-五〇一は同社のラッコの盗作品である旨を(同号証の3及び3の2)、

株式会社吉徳に対し、DW-三二五は同社の「トップガン」の、五〇四は「キャンディ」の各盗作品である旨を(同号証の4)、

それぞれ陳述した。

被告は、また、平成四年一二月一四日、オリエンタルトーイ株式会社に対し、DW-五〇三は同社の「うめ吉」の盗作品である旨を(同号証の6)、平成五年二月八日に株式会社つるや人形研究所に対し、DW-五〇八・五一〇は同社の「ゴリ丸」の盗作品である旨を(同号証の5)、各陳述した。

(2) しかし、右乙第四号証掲載のぬいぐるみは、いずれも、被告主張の商品の盗作品ではない。

すなわち、DW-五〇九・五一一のぬいぐるみは、ナカジマコーポレーションの「ブルカポネ」の意匠登録出願日(昭和六二年一一月二四日)及び販売開始日(同月二五日)より前に既に韓国で製造販売されていた製品をラッキーゴールドスター社が原告らに送付してきたものである。このことは、DW-五〇九・五一一が昭和六二年一一月六日付で写真撮影されていること、『ブルカポネ』と同一の範囲に属するブルドッグ製品が甲第九四号証イ(二十八)〈18〉に掲載されていること、DW-五〇九・五一一は、昭和六二年一一月三日に原告らとラッキーゴールドスター社との間で完成され、同月六日DW-五〇九が二〇〇〇個、DW-五一一が一〇〇〇個ラッキーゴールドスター社に発注され、昭和六三年一月一三日DW-五〇九が一〇二個初回船積みされ、以後、同月一六日DW-五〇九が一〇六二個、DW-五一一が一〇〇〇個、同月二一日DW-五〇九が八三六個各船積みされ(甲第四九号証)、直ちに入関手続を経て同月二〇日頃から四月頃にかけてDW-五〇九が一九三九個、DW-五一一が九七六個販売されたこと(甲第六ないし第八号証)から明らかである。

その他の乙第四号証掲載のぬいぐるみも、いずれも同一性のある製品が甲第九四号証(原告西森が昭和六二年五月一二日頃にラッキーゴールドスター社を訪問した時に入手したカタログ)に掲載されており、韓国のラッキーゴールドスター社から送付されてきたものである。しかも、これらの製品と同一又は類似の形態は、盗作されたと被告の主張する「マック」、ラッコ、「トップガン」、「キャンディ」、「うめ吉」、「ゴリ丸」の意匠登録出願日又は販売開始前から世界の市場で流通していたものであり、ぬいぐるみの歴史的・社会的必然の形態として生み出されたものであって、いわば世界の同業者の共有財産である。したがって、かかる必然的類似性のある単なるぬいぐるみの形態それ自体を特定人に独占せしめることは公益に反するものであり、公正な競争を著しく阻害するものである。

2  被告

(一) 右(一)の主張は争う。

(二) 乙第四号証掲載の原告ら主張のDW-五〇一~五〇四、五〇八~五一一がそれぞれ盗作品であることは、乙第二〇号証の4・第六号証の3(DW-五〇一)、乙第二〇号証の5・第六号証の2(DW-五〇二)、乙第二〇号証の1・第六号証の6(DW-五〇三)、乙第二〇号証の4・第六号証の4(DW-五〇四)、乙第二〇号証の3・第六号証の5(DW-五〇八・五一〇)、乙第二〇号証の2・第六号証の1(DW-五〇九・五一一)により明白である。

四  信用毀損業務妨害罪による原告西森に対する再告訴について

1  原告ら

(一) 被告は、平成三年一〇月頃、原告西森を大阪府南警察署に、信用毀損業務妨害罪で告訴した(以下「本件再告訴」という。)。

(二) 本件再告訴は、原告西森は被告が使用している表示の違反事実を摘示してその表示ある製品の撤去問題等に関して取引先に陳述することは何らしていないにもかかわらず、あたかも原告西森が右の諸点について取引先に陳述し、もって被告の営業を妨害したかのように偽ってなしたものである。

仮に原告西森が被告使用の表示の問題に言及したとしても、被告がその商品に使用している表示は他人の商標権の侵害とみなされる商標の使用、商品の生産地・販売地の虚偽表示、品質を誤認せしめる虚偽表示に該当するような外形的事実があることは真実であるから、虚偽の陳述行為には該当しない。

(三) したがって、被告による本件再告訴は、事実的、法律的根拠を欠くものであり、原告西森に対する不法行為を構成するものである。

そして、被告は、平成三年一一月中頃から末日頃にかけて、本件再告訴の必然的結果としてそごう大阪本社(総務部長)、高島屋大阪商品本部(中西顕次長)、大丸本社(吉田部長)、エトワール海渡大阪営業所(奥村所長)、平和堂本社、寺内株式会社(大久保)の各担当者に南警察署による事情聴取を受けさせて本件再告訴の事実を伝播させ、また、口頭をもって、多数の取引先に対し、本件再告訴自体及び告訴事実を伝播させたから、原告らの営業上の信用を害する虚偽事実の陳述に該当することは明らかである。

2  被告

原告らの主張は争う。

五  原告らの被った損害について

1  原告ら

原告らは、被告の不法行為により次の損害を被った。

(一) 原告ハンドハウスの損害 合計四億六四三〇万円

(1) 売上げ減少による純損失額 一億六七三九万円

平成二年九月度 九三六万円

原告両会社は、昭和六〇年度以降、税務当局と話合いのうえ、原告両会社の売上げ、所得等を合算して原告ハンドハウスに一本化して税務申告をしていたところ、平成二年九月度は平成元年九月度に対して売上げが四億八四一〇万円減少し、粗利益一億二一〇二万円(粗利益率二五パーセント)を喪失したため、一一二八万円の純損失となった。そのうち原告ハンドハウスの分は八三パーセントの九三六万円である。

平成三年九月度 一億一四八七万円(前同様の計算)

平成四年一月度 四三一六万円(前同様の計算)

(2) 未払債務額 八八四一万円

〈1〉未払借入金に対する利息及び遅延利息 五三九一万円

被告の不法行為によって原告両会社が実質的倒産状態に陥り、銀行からの借入金三億三二四五万円の利息さえ支払えなくなったことによる平成三年六月から平成五年一月までの期間における通常利息三三九七万円及び平成四年二月から平成五年一月までの期間における遅延利息一九九四万円の合計

〈2〉従業員三名に対する未払給料等 二七四四万円

被告の不法行為のために原告両会社が支払えなくなったが、早急に支払わなければならない平成二年一〇月から一二月までの従業員二名に対する未払給料・賞与二五六万円、平成三年一月から平成四年一月までの従業員三名に対する未払給料等一二四八万円、平成四年二月から平成五年一月までの従業員二名に対する未払給料一二四〇万円の合計

〈3〉原告両会社の残務整理に伴う諸経費 七〇六万円

原告両会社が倒産状態に陥った平成四年一月末から同年五、六月までの間の残務整理のために必要な本社事務所の家賃、電話料、コピー代、保険料、事務費、交通費、雑費等

(3) 被告の不法行為がなければ得られたであろう逸失利益 一億八八五〇万円

原告両会社は、平成元年九月度には売上高が九億二四五〇万円、純利益額が四四三万円であったところ、被告の不法行為がなければ平成二年以降も売上げを毎期順調に五〇〇〇万円ないし一億円増加させ、純利益も順調に獲得できたはずである。その平成二年九月度から平成一一年九月度までの純利益額の累積額二億六五五〇万円の原告ハンドハウス分(七一パーセント)。

(4) 慰謝料 二〇〇〇万円

被告が、原告ハンドハウスに対する取引先及び取引銀行の信用を失墜させ、「取引口座」を喪失させた結果、原告ハンドハウスを倒産せしめたことに対する補償

(二) 原告ケンアンドロンの損害 一億八八〇〇万円

(1) 売上げ減少による純損失額 九一〇〇万円

平成二年九月度 一九二万円

平成三年九月度 四九二三万円

平成四年一月度 三九八五万円

(2) 被告の不法行為がなければ得られたであろう逸失利益 七七〇〇万円

(3) 慰謝料 二〇〇〇万円(原告ハンドハウスと同様)

(三) 原告西森の慰謝料 一〇〇〇万円

原告西森は、被告による本件告訴の必然的結果として生じた長期にわたる捜査当局の事情聴取、不起訴処分に至るまでの一年半の精神的・肉体的苦痛、本件告訴によって生じた「特別の事情」を処理するための諸々の肉体的・精神的苦痛を伴った書類整理、訴訟準備行為、取引先又は取引先に対する難儀な事情説明行為、更に被告の本件再告訴による精神的苦痛、原告両会社がついに倒産に至ったことに対する苦痛等、多大の精神的・肉体的・経済的痛手を被ったので、これに対する慰謝料は一〇〇〇万円が相当である。

2  被告

仮に原告両会社に原告ら主張の売上げの減少があったとしても、被告の本件告訴等との間には全く因果関係がない。

すなわち、原告西森は、後記七1(一)記載のとおり、平成三年三月から同年一〇月までの間、被告の得意先の担当者に対し、電話又は面談により、概略、「現在株式会社ファーストに対し四億五〇〇〇万円の損害賠償の訴えを提起している。ファーストの製品に着装している織ネーム、下げ札は法律に違反している。近く勝訴判決が出る予定である。これ以上係争中のファーストの商品を取り扱うようでは、判決が出たら店及び担当者を訴えることになると思う。ファーストの商品を直ちに店から撤去した方がよい。」と申し向け、中には被告の商品を引き下げ代わりに原告ハンドハウスの商品を買うように申し向けたこともあった(乙第九号証の1~8、特に乙第九号証の1の2、被告代表者関口豊一の供述)。原告西森のかかる行為によって、その噂が原告両会社の得意先に伝わり得意先が嫌悪感を抱き、取引を中止又は縮小するのはごく自然の成行きであり、原告ら主張の売上げ減少があったとしても、それは右のような原告西森自身の自殺的行為に起因するものである。

六  原告らの被告に対する織ネーム及び下げ札の使用の差止請求等について

1  原告ら

(一) 被告は、その販売するぬいぐるみに、別紙(五)の織ネーム目録〈1〉ないし〈5〉記載の織ネーム(以下「織ネーム〈1〉」、「織ネーム〈2〉」……のようにいい、総称して「本件織ネーム」という。)、及び別紙(六)の下げ札目録〈1〉ないし〈6〉記載の下げ札(以下「下げ札〈1〉」、「下げ札〈2〉」……のようにいい、総称して「本件下げ札」という。)を付しているところ、これは以下のとおり不正競争防止法一条一項四号の出所地誤認表示又は同項五号の品質誤認表示に該当する。

(1) 本件織ネームに記載されている「REG. OHIO PA. 799 MASS. 463 MAINE 770」は、アメリカ各州において、ぬいぐるみを販売する業者が品質等を表示するものとして普通に使用しているものであるが、我が国の流通業者(問屋、百貨店、スーパー)及び一般消費者にはその意味が全く認識されておらず、我が国においてはこれと同一又は酷似する表示はアメリカを中心とする世界的な著名製品にしか使用されていないことから、スヌーピー等の世界的著名製品が有している品質保証機能を示す表示として想起、認識されるおそれが大きいから、品質誤認表示に当たる。

本件織ネームには、「EXCELLENT」(織ネーム〈2〉〈4〉〈5〉)又は「ファースト」(織ネーム〈1〉〈3〉)も表示されているが、これらは、自他商品識別機能及び出所表示機能を果たしえない標章であるばかりか、逆に品質の誤認を生ぜしめるものであり、「FIRST CORP. 〈C〉」も、その活字の大きさ、使用個所、態様に照らして目につき難いから、出所表示機能を果たしていない。

出所地表示と思われる「MADE IN JAPAN」(織ネーム〈1〉〈2〉)、「MADE IN THAILAND」(織ネーム〈3〉〈5〉)、「MADE IN KOREA」(織ネーム〈4〉)にしても、他の文字と同じ活字で、普通に用いられる方法で表示されており、他の外国地名及び素材を表示する文字と密接不可分に結合している関係上、単に製品の素材たる織物(ポリエステル合成繊維)の製造地を示すにすぎず、製品自体の製造地を示すものとは解されない。特に「MADE IN THAILAND」(織ネーム〈3〉〈5〉)、「MADE IN KOREA」(織ネーム〈4〉)の表示は、一般的に出所地・製造地の表示が他の表示と独立した位置、態様で明確に表示されているのと異なり、他の外国地名、素材の記載の一部として同じ活字で普通に用いられる方法で表示されている。

したがって、本件織ネームは、取引者及び一般消費者をして、「外国で意匠等が権利登録され、外国で生産又は販売されているであろう斬新的素材の優秀製品」で、「アメリカで完成させた外観の縫製品(半製品)を単に日本で加工・完成せしめた実質的外国製品」(織ネーム〈1〉〈2〉)、又は「タイ又は韓国で生産させた織物・ポリエステル及び半製品を輸入してアメリカ又は日本で完成させた製品」(織ネーム〈3〉〈4〉〈5〉)である旨、商品の品質(織ネーム〈1〉〈2〉)又は出所地(織ネーム〈3〉〈4〉〈5〉)の誤認を生ぜしめるものである。

(2) 本件下げ札のうち、「KING」(下げ札〈1〉)、「EXCELLENT」(下げ札〈2〉)、「BULBUL」(下げ札〈3〉)、「COTTON FIELDS」(下げ札〈4〉)の各商標は、自他商品識別力を有していないうえ、「KING」及び「BULBUL」は、他人の商標権を侵害している疑いが強く、加えて、「KING」は、昭和六二年一〇月初めに被告商品キングが発売される前に既に我が国の取引者間に著名商号・商標となっていた訴外株式会社キングの商標等と同一又は酷似するものであり、「BULBUL」も、著名会社の訴外服部セイコーの「BULLBULL」と同一又は酷似するものであるから、商品の品質の誤認又は出所の混同を生じさせるものであり、また、「EXCELLENT」は、被告の使用開始前に既に「卓越した、優秀な」品質の商品を示す語として取引業者間で広く認識されていたから、商品の品質の誤認を生じさせるものである。

下げ札〈5〉〈6〉は、すべて英文であることから、一緒に使用されている前記のような織ネームによる品質又は出所地の誤認を増幅させるものである。

(二) 被告の右出所地又は品質誤認表示行為により、日本のぬいぐるみ業界全体の信用・信頼性が失われ、需要者のぬいぐるみ商品に対する不信感を高め、その結果、買い控え、購入意欲の減少を生じさせ、必然的に原告両会社の売上げが減少し、損害を被るおそれがあるので、原告らは、右出所地及び品質誤認表示行為の差止めを求める。

(三) 被告主張の原告らによる公正取引委員会事務局大阪地方事務所に対する申告は、平成二年八月中頃、織ネーム〈1〉〈2〉が不当景品類及び不当表示防止法四条三号に規定する「商品の原産国に関する不当表示」に該当するとの疑いでなしたものであり、「文字による表示の全部又は重要部分が外国の文字で示されている表示」が不当な原産国表示になるか否かが主な課題であったが、同法に基づく運用基準では、織ネーム表示がすべて英文字で表示されていても、「国産」、「日本製」、「MADE IN JAPAN」等の一応の打消表示があれば不当表示とは判断しないとされているので、「違反事実なし」との回答になったものと推測される。

商品の品質・内容の点については、通産局の管轄であって、公正取引委員会の管轄外であるとのことであるので、当初の申告から除外しており、審査の対象となっていない。

したがって、異なった法規に基づく公正取引委員会の回答をもって、被告の本件織ネーム及び本件下げ札が全体として不正競争防止法一条一項四号、五号に該当しないとする根拠とすることはできない。

2  被告

(一) 本件織ネーム及び本件下げ札は、違法不当なものではない。

このことは、原告らが平成二年八月中頃に公正取引委員会事務局大阪地方事務所に対して、不当景品類及び不当表示防止法に違反しているとして本件織ネーム及び本件下げ札の排除命令を求める申告をしたのに対し、担当した公正取引委員会事務局取引部景品表示監視課冨本美知子が「違反事実なし」と回答したことからも明らかである。

被告が使用している「KING」、「BUL BUL」の表示については、それぞれ株式会社キングジム、コンビ株式会社の使用許諾を得ている(乙第一七号証の1・2)。

(二) また、不正競争防止法一条一項四号、五号に基づく差止請求は、「営業上の利益を害せらるる虞ある者」にのみ認められるところ、被告の製品に付けた本件織ネーム及び本件下げ札が原告らの織ネーム及び下げ札と競合することはなく、原告らの利益を害していることは全くない。原告ら主張のような迂遠なものが右営業の利益に該当するとは考えられない。

七  被告の原告西森に対する反訴請求について

1  被告

(一) 平成三年三月四日から同年一〇月二七日までの間の原告西森の信用毀損業務妨害行為

(1) 原告西森は、別表(一)記載の日に、同表記載の被告の得意先の担当者に対し、電話又は面談により、概略、「現在株式会社ファースト(被告)に対し四億五〇〇〇万円の損害賠償の訴えを提起している。ファーストの製品に着装している織ネーム、下げ札は法律に違反している。近く勝訴判決が出る予定である。これ以上係争中のファーストの商品を取り扱うようでは、判決が出たら店及び担当者を訴えることになると思う。ファーストの商品を直ちに店から撤去した方がよい。」と申し向けた。

(2) そのため、被告の取引先である株式会社高島屋の日本橋店・横浜店・玉川店・港南台店・立川店・大宮店・大阪店・泉北店・堺店、株式会社丸広百貨店、株式会社そごう大阪店、株式会社ニチイビブレ、株式会社大丸神戸店・須磨店、株式会社平和堂の合計一五店舗は、平成三年五月頃から被告との取引を停止し、被告の商品を売り場から一切撤去してしまった。

(3) これにより、被告は、平成三年は、別表(二)記載のように前年に比較して合計二六九〇万二一八〇円売上げが減少し(乙第一六号証の1・2)、これと同額の損害を被り、また、被告の得意先に対する信用は失墜し、その損害は少なくとも三〇〇〇万円を下らない。

原告西森の行為は信用毀損業務妨害の不法行為に該当するものであるから、原告西森は被告に対し、右合計五六九〇万二一八〇円の損害を賠償すべき義務がある。

(4) なお、原告ら代理人柴山譽之弁護士からの申入れにより平成三年四月二六日に大阪弁護士会館で原告らと被告との間で和解の話合いが行われることになったところ、原告西森は、同年三月四日から同年四月二三日までの間に前記別表(一)のダイエー、エトワール、高島屋の日本橋店・横浜店・玉川店・港南台店、そごうの有楽町店・八王子店、西武商品部に対し、右(1)の信用毀損業務妨害の行為に及んだものである。

これを知って、被告代理人松本泰次弁護士が柴山弁護士に抗議したので、原告西森の右信用毀損業務妨害行為は一時中止された。

同年四月二六日の和解の話合いの際、原告ら側から出された和解案は、損害金三億三〇〇〇万円の支払い、取引先等との関係修復協力、原告西森の慰謝料及び顧問料二〇〇〇万円の支払い、原告ハンドハウスの商品・ノウハウの仕入れ・購入一億円、原告ハンドハウスに対する四億六〇〇〇万円相当のぬいぐるみの発注及び買取り契約締結その他を要求するものであった(乙第三〇号証)。右要求は、およそ話合いの余地のない一方的で法外な内容であり、和解の申入れをしてその日取りまで決めながら、その和解の話合いの前に前記のように営業妨害の工作をしてくる始末であり、原告らの要求の内容と方法は、和解に籍口した恐喝的行為であるといっても過言ではない。

被告が右の要求を断るや、原告西森は、再び、同年六月五日以降、前記別表(一)のそごう船橋店以下の取引先に対し、(1)の信用毀損業務妨害行為に及んだものである。

(二) 平成五年五月頃の原告西森による「事実確認依頼書」による信用毀損業務妨害行為

(1) 原告西森の嫌がらせはその後も続き、平成五年五月一〇日過頃から六月初めまでの間、「事実確認依頼書」なる文書を左記のとおり送付するに至った。(日付は受取日)

五月一二日 株式会社そごう取締役神戸店次長野村克彦(甲第一七〇号証)

一三日 株式会社大丸代表取締役下村正太郎(甲第一七一号証)

一三日 株式会社平和堂商品部長古川勝敏(甲第一七二号証)

二二日 株式会社岩田屋代表取締役中牟田健一(甲第一七三号証の1)

二二日 株式会社井筒屋代表取締役木原文吾(同号証の2)

二二日 株式会社黒崎そごう店次長水島俊行(同号証の3)

二二日 株式会社山形屋代表取締役岩元恭一(同号証の4)

二四日 株式会社寿屋代表取締役石井丈一(同号証の5)

二二日 株式会社福岡玉屋代表取締役田中丸善亮(同号証の6)

一八日 株式会社ニチイ代表取締役小林敏峯(甲第一七四号証)

一七日 寺内株式会社代表取締役寺内幸夫(甲第一七八号証)

六月 四日 株式会社近鉄百貨店代表取締役田中太郎(甲第一七九号証)

(2) 右の一連の行為により新たに大丸京都店・東京店、九州鹿児島の山形屋等が被告との取引を停止してしまった。

したがって、被告の被った損害は、更に拡大しているが、右(一)(3)の限度で賠償を請求するものである。

(3) なお、右(1)のうち寺内株式会社に原告西森が送付した「事実確認依頼書」として、原告らは本件訴訟で甲第一七八号証を提出しているが、実際に同社に送付された「事実確認依頼書」(乙第三八号証)とは明らかに異なるものである(乙第三八号証は、表紙一枚・事実確認願(一)七枚・事実確認願(二)一五枚からなるものであるが、甲第一七八号証は、乙第三八号証と表紙が異なり、内容も、右の事実確認願(二)のうちの一〇枚目から一三枚目までを綴ってあるのみで他は除かれており、それに伴って最初の「第五」が「第一」と改竄され、最後の頁に「事実確認事項」まで書き加えられている。)。

株式会社寺内以外に送付された「事実確認依頼書」は、被告において入手できなかったが、これらについても原告ら提出の甲号証は実際に送付されたものと異なるとの推測が可能である。

このことは、原告西森の供述及び原告ら提出の甲号証全体の信用性にも疑問を抱かせるものである。

2  原告西森

(一)(1) 原告西森が取引先に説明した内容の要旨は次のとおりである。

イ そもそもブーム便乗的な後発販売の製品で、先行意匠に類似し、宣伝がなく、非継続的、短命、高額少量販売の単なる動物のぬいぐるみである被告商品の形態自体が、取引の実情の下において自他商品識別機能を取得することはありえない。もし、かかる不可避的構造に由来する必然的結果にすぎない製品が不正競争防止法によって保護されることになれば、同種の動物ぬいぐるみ製品を製造販売している世界の業者は、そのすべての製品を永久に販売することができなくなるという極めて不合理な結果が生じるから、かかる製品は特定人に独占を許すわけにはいかない。

ロ 被告商品に使用している表示は、他人の商標権の侵害とみなされる商標、登録商標虚偽表示、周知著名表示と同一又は類似の使用による出所又は品質の誤認惹起表示、品質誤認惹起表示で密接不可分に結合されており、かかる表示のある形態自体が同じ公正な競争秩序の維持を目的とする不正競争防止法による保護を求めることは許されない。

ハ したがって、元来告訴権を有しないにもかかわらず、あえて原告らのぬいぐるみ市場への新規参入を妨害するために告訴状及び証明書に虚偽事実を記載して原告らを告訴した被告の行為があまりにも取引社会の一般通念を逸脱したものであるので、原告らは提訴して闘っている。

ニ 原告らは、被告が被告商品に使用している表示の差止請求をしている(被告商品の形態の保護とその使用している表示は密接不可分であり、切り離して説明できないから、形態の保護と表示とは一体化した事案として総合的に説明せざるをえない。)。

ホ 被告による本件告訴は、客観的事実に反する虚偽の申告行為に該当するので、被告代表者を誣告罪で大阪地方検察庁に告訴している。

(2) したがって、原告西森は取引先に対し前記1(一)(1)の被告主張のような内容の陳述はしていない。

ⅰ 取引先への説明の中心は、前記のとおり被告商品の形態が不正競争防止法による保護に値しないことであり、その使用している表示については、右形態の保護との関係で副次的に説明したにすぎない。

ⅱ 本件は民事・刑事上の多岐にわたる事案でかつ高度の専門的判断を要するものであることから、裁判が長期化することは原告西森も原告ら代理人柴山弁護士から聞いて十分承知していたから、「近く勝訴判決が出る予定である」というようなことは言うはずがないし、言う理由もない。

ⅲ 原告西森は、一般論として、不正競争防止法、商標法等の違反は不当景品類及び不当表示防止法違反とは異なり、販売会社もその販売責任を問われるおそれがあると説明したのであって、特定の取引先を名指ししてその販売責任を問うと言ったことはない。しかも、公正取引委員会の審査結果が不正競争防止法等の問題をも左右するとの印象を与える被告の誇大主張に対して補足する意味で説明したにすぎない。

ⅳ 原告西森は、原告両会社の取引先に対して、旧知の担当者を交えて友好的、協同的ななごやかな雰囲気の中で事情説明をしていたのであり、また、優越的地位にある大手小売店が納入業者と取引をするかしないかは、一納入業者である原告らの発言に全く影響されることなくあくまで大手小売店自身が独自に決する問題であり、大手小売店の取扱商品に言及すればその業者自身が取引から外される危険が高いから、担当者の反感を買うような抗議をしたり、大手小売店の取扱商品に言及するような越権行為をしたりすることはありえない。

(3) 原告西森が取引先に右(1)のとおりの内容を説明をする必要があった事情は、以下のとおりである。

ⅰ 被告の松屋百貨店浅草支店に対する虚偽事実の陳述、ダイエーの事情聴取、告訴事実の乙第七号証の1~4の取引先その他の取引先への陳述流布行為等により、平成三年二月中頃には、わが国の大部分の大手流通業界にこれらの告訴事実が伝播せしめられていた。このことは、ダイエーグループ、松屋百貨店浅草支店、関西・関東の西友、西武百貨店、関東そごう、鈴屋、その他の大手小売店との取引が中断していることからみて明らかである。

原告西森は、そのことを察知して、原告らの正当性の理解を得るために取引先にこれまでの事情経過を説明する必要があった。

特にダイエー神戸店の責任者から、「告訴されていることをなぜ事前に取引先に報告しなかったのか」とひどく叱責されたので、原告西森は原告らの正当性を立証するために損害賠償請求、差止請求をしていることを、原告らの取引先、特に捜査機関による事情聴取の寸前であった西友、西武、ジャスコ、丸広に対して説明する必要性を強く感じていた。

また、昭和六三年九月一二日の本件告訴以後急激に又は不自然に取引が中断している大手小売店(高島屋、大丸、平和堂、ペリカン、エトワール海渡)に対しても、原告らの正当性の理解を得て原告ら及びその商品に対する信頼を回復する必要性があった。

ⅱ 原告西森は、本件告訴につき事情聴取を受けたダイエーに対して告訴事件の結果が確定し次第文書で報告することを約束していたので、本件告訴につき平成三年五月二八日に不起訴処分になった後の同年六月末日頃、ダイエーに対し本件告訴から不起訴処分に至るまでの経緯を説明した文書(甲第一〇八号証)を提出した。

また、原告西森は、前記事情説明をした取引先その他の取引先に対して本件告訴事件の結果を報告する義務を必然的に負っていたので、不起訴処分についての報告書(乙第八号証の1)を各取引先に配付した。

特にエトワール海渡大阪営業所長は、昭和五三年頃から商取引を通じて知っていた関係もあって、とにかく東京本社に報告する義務があるので詳しい説明書がほしいと頼まれて訴訟資料を貸していたほどであるので、平成三年六月一五日頃以後に本質的事項を付加した乙第八号証の2を同大阪営業所長に手渡した。

ⅲ 被告は、平成三年六月中頃から同年一一月末日頃にかけて、「当社が昭和六二年に販売したぬいぐるみの『KING』、『BULBUL』の偽物を販売したとして不正競争防止法違反で、大阪府南警察署に告訴致しました。」「しかし、西森側が当社が販売した既述の『KING』『BULBUL』の偽物を販売したことは間違いのない事実であり」「この件につきましては、当社と西森側とで再三話合いを行いましたが、西森側は当社に対し、再三無茶の要求をしてきましたので話にならず決裂し」た旨を記載した文書(甲第一〇六号証)を多くの取引先に送付したが、右文書に記載されている内容は、あたかも原告両会社が周知性を確立している被告商品キング及び被告商品ブルブルの偽物を販売して被告から告訴されている悪質な代表者によって経営されている企業であり、それにもかかわらず無茶な要求をしている極めて信頼性のない会社である旨の印象を取引先に与えるものであり、原告らの営業上の信用を著しく毀損せしめることは明白である。

しかし、被告商品の形態が不正競争防止法一条一項一号の商品表示に該当しないことは前記のとおりであり、また、原告西森は同年四月二六日、被告代理人弁護士に原告らの方から和解の条件等を早急に提案するよう依頼されたので、五月の連休に乙第三〇号証を作成したのであり、和解をするには積極的に何回も話し合うことが必要であるのに、被告側からはこれに対して具体的な返事は全くなく、原告らが再三無茶を言うほどの機会はなかった。

ⅳ また、被告による前記三1(一)の株式会社そごう神戸店に対する虚偽事実の陳述行為、同(二)の乙第六号証の1~6の各証明者に対する行為に対し、原告らの権利を防衛するためにやむをえず取引先に事情説明をする必要があった。

ⅴ 前記四1記載のとおり、被告は平成三年一〇月頃、原告西森を大阪府南警察署に信用毀損業務妨害罪で再告訴し(本件再告訴)、その必然的結果として同年一一月中頃から末日頃にかけてそごう大阪本社(総務部長)等の各担当者に南警察署による事情聴取を受けさせるなどして、本件再告訴自体及び告訴事実を取引先へ伝播せしめた。

(4) 被告と高島屋本支店との取引の停止は、高島屋が平成三年四月二〇日頃の全店会議において独自に判断して決定したものであって、原告西森の説明行為との間に相当因果関係はない。このことは、そごう大阪店・神戸店、大丸神戸店・須磨店、平和堂についても同様である(甲第一五六号証)。

特に、原告西森が電話連絡をしたことがなく、また被告と極めて友好的であるそごう大阪店・神戸店、大丸須磨店の売上げが原告西森の説明行為によって減少したというのは全く不自然である。

したがって、被告の主張する損害と原告西森の行為との間には全く因果関係がない。

更に、売上げ減少による逸失利益を損害賠償として請求するとしても、一般的に、逸失利益の額は売上額から仕入高を差し引いた粗利益ではなく、売上額から仕入額、営業費等の売上げに要したすべての費用を差し引いた額であるとするのが理論的にも実務的にも正当である。

(二)(1) 原告西森が、平成五年五月二〇日頃から六月二日頃にかけて、甲第一六九号証の内容の「不正競争防止法告訴経緯及び差止請求訴訟経緯」書類を、甲第一七〇ないし第一七四号証、第一七八、第一七九号証のとおり取引先との具体的関係を記載した「事実確認依頼書」に同封して配達証明郵便で送付したのは、被告から提出された乙第九号証の各供述書があまりにも真実と相違しており、税理士でもある原告西森の名誉・信用を著しく毀損し、その業務を阻害しているためであり、民事・刑事上の責任を問われている原告西森として、真実究明のために取引先に事実の確認を依頼したのは当然の措置である。

しかも、右の各書類の内容は真実に合致したものであり、確実な資料、根拠に基づいたものである。

したがって、原告西森の行為は正当であり、被告から民事・刑事上の責任を問われる理由はない。

(2) 被告は、右「事実確認依頼書」の送付により新たに大丸京都店・東京店、山形屋が被告との取引を停止してしまったことにより更に損害を被ったと主張するが、被告と取引先との取引の可否はあくまで両者の個別的事情によって決せられる問題であって、原告西森のような外部者が関知するような性質のものではなく、その間に相当因果関係はない(甲第一五六、第一五八号証)。

全く事実無根のことを、あたかも取引先担当者が供述したとする供述書を当該担当者及びその所属する会社に無断で裁判所及び捜査当局に証拠書類として提出することは、取引社会における信義誠実の原則及び取引開始に際して取り交わしている商品売買基本契約書(甲第一〇三号証。株式会社ニチイと原告ケンアンドロンとの間のもの)に反するとして、その取引を停止され又は取引先から強い抗議を受けるのは一般的にいって不可避的であり、優越的地位にある大手小売店との一般的取引実情及び社会公共性のある大手小売店の立場から見て、やむをえないものといわなければならない。したがって、被告がその主張のように取引停止を受け、その他の取引先から強い抗議を受けたとしても、それはあくまで被告自身の行為に由来する必然的結果である。

(3) 甲第一七八号証が乙第三八号証と相違するところがあるのは、原告西森は送付した乙第三八号証の控えをそのまま保存していなかったところ、乙第三八号証は、乙第七号証の3及び第九号証の2の9の双方の文書に対する事実確認依頼であることから、乙第九号証の関係のみの送付先についても内容を引用できるようにその自筆の原本を本件経緯を記述した共通的部分と寺内株式会社のみに通用する部分とに分離したが、その際に喪失したのか、乙第三八号証の事実確認願(一)の七枚、乙第九号証の2の9に対する事実確認願のための記述部分及びその具体的事実確認事項を記載した事実確認願(二)の一四枚目・一五枚目の自筆原本が手元に存在しなかったので、甲第一七八号証ではそれらが欠落していることなどによる。

しかし、右乙三八号証の文書と甲第一七八号証を比較すれば、その表現態様、主観的見解内容等において若干の相違点があるが、それはあくまで本件経緯を詳述するためにごく普通に用いられた表現態様にすぎないものであって、読む者に何ら特別の印象を与えるものではない。

その事実を表現する過程で、不適切な表現態様があったとしても、それが用いられた目的、経緯等の諸般の事情からみて、社会通念上当然に許されるべきものといわざるをえない。

第四  当裁判所認定の本件の事実経過

証拠(甲第一、第二、第一一号証、第二二ないし第二四号証、第四七、第五二、第一〇六、第一〇八、第一二〇号証、第一二一号証の1~4、第一七〇ないし第一七二号証、第一七三号証の1~6、第一七四、第一七九号証、乙第一号証、第一号証の2、第二ないし第四号証、第五号証の1~4、第六号証の1・1の2・2・2の2・3・3の2・4・5・6、第七号証の1~4、第八号証の1・2、第九号証の1の1・1の2・2の1~10・3の1~9・4の1~6・5の1~5・6の1・7の1・8の1、第一二、第一三号証、第二六ないし第三〇号証、第三五、第三八号証、原告西森の供述〔第八回ないし第一二回口頭弁論期日〕、被告代表者の供述〔第一三回ないし第一八回口頭弁論期日〕)及び弁論の全趣旨によれば、次の一ないし一〇の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

一  被告は、昭和三四年、被告の現代表取締役関口豊一の父豊治のぬいぐるみや家具の製造販売業を前身として、「東京布帛玩具株式会社」の商号で設立された株式会社であり、昭和五〇年、株式会社ファーストを吸収合併して、商号を「株式会社ファースト」(現商号)に変更したものであり、主としてぬいぐるみの製造販売を業としている。

昭和五六年には、被告の製造販売した「おちないくん」と名付けたサルのぬいぐるみが大ヒットし、二五〇万個売れたということがあった。現在約二〇〇〇店の取引先があり、その中には問屋も含まれるので、被告の商品を販売する店舗(小売店)は六〇〇〇店を下らない。

原告西森は、もともと税理士であるところ、昭和四二年から、袋物等の繊維製品・日用雑貨の製造販売を業とする昭和三九年設立の株式会社ロンの代表取締役に就任し、昭和四四年からはぬいぐるみの製造販売を始め、「スネブル」と名付けた犬など、数十種類に及ぶぬいぐるみを製造販売したが、昭和四八年、裁判所に和議を申請して事実上倒産した。

そして、原告西森は、昭和五三年一二月一三日、袋物、婦人衣料品等の製造販売を業とする原告ケンアンドロンを設立し(当時の商号は「株式会社ファイブ」)、続いて昭和五四年二月三日、寝装品、袋物等の製造販売を業とする原告ハンドハウスを設立し(当時の商号は「株式会社ケンアンドロン」)、いずれもその代表取締役として経営に当たっている。

原告ケンアンドロンは、昭和五六年から昭和五八年にかけてキルティングのバッグを、原告ハンドハウスは、昭和六〇年から昭和六二年にかけて原告ハンドハウスのロゴ付バッグを、それぞれヒット商品として製造販売した。原告両会社の取引先は約二〇〇店である。原告両会社の従業員は、合わせて営業関係二名、女子二名、総務関係二名であり、原告西森が、商品の企画、販売、得意先・銀行との交渉等全般につき、責任者として直接担当していた。

二  被告は、昭和六二年七月七日、被告商品キングの意匠につき意匠登録出願をしたうえ、同年九月末日、被告商品キングの販売を始めた。

原告両会社は、昭和六三年一月六日、原告商品ゴリラの販売を始めた。

被告は、同年二月初め、松屋百貨店浅草支店において、被告商品キング(小売価格一万円)と原告商品ゴリラ(小売価格三五〇〇円)とが同じ売場に並べて販売されていることを発見し、同月一〇日原告商品ゴリラを購入したうえ、原告商品ゴリラは被告商品キングと同じものであると判断し、同月中頃、被告代表者が松屋百貨店浅草支店の柳瀬課長と面談し、「被告商品キングは意匠登録出願をしていて、近くその登録が下りる自信もあるが、このような意匠法違反、不正競争防止法違反の模造品(原告商品ゴリラ)を扱われては、被告商品キングが全然売れなくなるので、模造品を撤去していただきたい。」旨述べた。また、被告は、原告両会社の従業員が同店に渡した乙第四号証(商品の写真を並べて貼った紙を綴ったもの)も入手した。

これに対し、右柳瀬課長は、当事者同士で話し合っていただきたいと述べ、原告商品ゴリラを売場から撤去することはしなかった。そして、松屋百貨店浅草支店は、原告両会社からそれまで合計九〇個の原告商品ゴリラを仕入れていたが、その後も、同年五月にかけて合計四五二個の原告商品ゴリラを仕入れた。

そこで、被告は、代理人松本泰次弁護士作成の同年三月三日付内容証明郵便により、原告ハンドハウスに対し、「警告人(被告)は、通称『KING』というゴリラのぬいぐるみ(被告商品キング)の意匠登録を昭和六二年七月二七日に特許庁長官に対してなし、同庁より六二-〇二七四二八号として既に受理されている。しかるに、被警告人(原告ハンドハウス)は右ゴリラと全く同一の偽のぬいぐるみを製造し、松屋デパート等で販売している。被警告人の右の行為は意匠法・不正競争防止法に違反しているので、警告人は現在被警告人に対し、民事・刑事の法的手段を採るべく準備中であるが、とりあえず、直ちに右ぬいぐるみの製造販売を中止するよう警告する。」との警告書(甲第一号証、乙第一二号証)を送付した。

これに対し、原告両会社は、同月八日頃、代理人藤田邦彦弁護士作成の回答書により、「当方が製造販売している該当商品(原告商品ゴリラ)は当方の創作にかかる製品であり、また通常の販売ルートを通して市場に出している製品である。貴社(被告)主張の出願中の意匠登録出願の内容、及び何が不正競争行為に該当するのか不明であり、当方検討する余地がない。したがって、右製品の製造販売は遺憾ながら中止いたしかねる。」と回答した(甲第二号証、乙第一三号証)。

三  被告は、続いて、同月一九日頃、前年(昭和六二年)一一月一八日に意匠登録出願済みの被告商品ブルブルの販売を開始した。

原告両会社は、昭和六三年六月二七日、原告商品ブルドッグの販売を始めた。

四  被告は、松本弁護士とも相談して原告らを不正競争防止法違反により告訴することに決め、被告の担当者大橋弘幸は、同年八月、松本弁護士の指示で株式会社そごうホップ・営業第三課、株式会社西武百貨店・商品事業部趣味雑貨部関西北陸担当、寺内株式会社・第三セクション、株式会社ペリカン・商品統括部第二商品部の各担当者と面談したうえ、案文を示して、各担当者に、「株式会社ファーストが製造販売している通称『キング』及び『ブルブル』というぬいぐるみは、業界でもファーストの製品であるという事を一目瞭然の事実として皆から認められています。業界でもヒット商品の一つとして数えられており、偽物が出回るという事は業界にとって大変迷惑な事であり、厳重なる取締りをお願いする次第である。」という内容の書面を作成してもらい、各書面(乙第七号証の1~4)を受け取った。

被告は、同年九月一二日、代理人松本弁護士により、右各書面を添付して、原告両会社が原告ゴリラ及び原告ブルドッグを製造販売していることにつき、原告ら三名を不正競争防止法違反の罪で大阪府南警察署に告訴した(本件告訴)。

その告訴状(乙第三五号証)に記載された告訴事実は、「原告西森は原告両会社の業務に関し、昭和六三年当初より今日までの間に、被告が昭和六二年七月七日に意匠登録出願をした(同月二七日出願番号通知)被告商品キング及び同年一一月一八日に意匠登録出願をした(同年一二月一一日出願番号通知)被告商品ブルブルが動物ぬいぐるみとしては爆発的に売れているのに目を付け、右各ぬいぐるみと全く同一の偽のぬいぐるみを製造販売し商品主体混同行為をなしたものであり、右原告らの所為は不正競争防止法五条二号に該当すると思料するので厳重処罰を求める。」というものであった。

昭和六三年一〇月、松屋百貨店浅草支店は原告両会社との取引を中止した。

平成元年二月二二日、被告商品キング及び被告商品ブルブルの各意匠について被告がした意匠登録出願に基づき意匠権の設定登録がされた。

五  原告西森は、本件告訴により、平成二年一月から同年八月までの間に、合計二一、二回にわたり、大阪府南警察署の取調べを受け、告訴事実に対する自己の主張を証明するための証拠書類の整理や書面作成に追われた。

原告らは、一方、平成二年八月中頃、公正取引委員会事務局大阪地方事務所に対し、被告が製造販売している商品に使用している本件織ネームのうちの織ネーム〈1〉〈2〉は不当景品類及び不当表示防止法四条三号(具体的には「商品の原産国に関する不当表示」)に該当するとの疑いがある旨申告した。右申告については、その後、公正取引委員会事務局から原告らに対し、「違反事実なし」との回答があった。

原告らは、同年一一月一九日、本件訴訟(本訴)を大阪地方裁判所に提起した。

原告らは、平成三年二月一日、被告代表者らを誣告罪により大阪地方検察庁に告訴した。

六  平成三年三月から一〇月までの間、原告西森又は原告両会社の従業員は、面談又は電話により、別表(一)の被告の取引先の担当者に対し、被告商品は不正競争防止法によって保護されるものではなく、本件告訴は誣告に当たるので大阪地方検察庁に告訴している旨説明するとともに、被告が被告の製造販売する商品に使用している表示は、他人の商標権の侵害、品質の誤認表示に該当するものであり、原告らがその使用差止めを請求している訴訟で勝訴すれば、不正競争防止法違反についてはその商品の販売者も責任を負わねばならない旨を説明した。

七  その間、同年四月二六日の大阪弁護士会館における交渉以降、原告らと被告との間で裁判外での和解交渉がもたれ、原告らは、金銭解決による和解案として、被告が原告らに対し三億三〇〇〇万円の損害賠償を支払い、原告両会社と取引先等との関係修復に協力すること、又は取引による和解案として、被告が原告西森に対し慰謝料及び顧問料として二〇〇〇万円を支払い、原告ハンドハウスの商品及びノウハウを一億円で仕入れ、和解成立と同時に原告ハンドハウスとの間で四億六〇〇〇万円相当のぬいぐるみの買取契約を締結し、契約金としてとりあえず一億六〇〇〇万円を交付することなどを提案したが(乙第三〇号証)、物別れに終わった。

同年五月二八日、大阪地方検察庁検察官は、本件告訴による不正競争防止法違反事件につき、「嫌疑不十分」により不起訴処分をした(乙第五号証の2・4)。

同年六月、原告両会社は、株式会社ダイエーの担当者に対し、「被告と原告らの不正競争防止法違反事件につき、平成三年五月末日、大阪地方検察庁から不起訴処分の決定があった。この不起訴処分は、当方の主張である『株式会社ファーストの製品の販売開始よりも早い時期に独自企画製品が完成され、かつ発注契約済み又は販売済みであったこと、また株式会社ファーストの商品が保護要件を充足していないこと』等の主張が認容されたものと確信している。」としたうえ、これまでの経緯を報告するとして、被告の本件告訴により原告西森は、平成二年前半に長期の厳しい捜査を受けたが、平成二年後半に被告代表者らを誣告罪で告訴すると同時に、損害賠償請求と製品の差止請求を大阪地方裁判所に提起したこと、被告商品の形態は、不可避的構造に由来する不可選択的結果によるものであって、不正競争防止法による保護要件を欠如すること、本件告訴は、企業及び個人にとって殺人罪に匹敵するほどの致命的打撃を与えるものであるのに、慎重かつ十分な調査検討の結果に依拠したものではなく、原告らに刑事処分を受けさせる目的的行為であると断言せざるをえないこと、本件告訴により、平成二年五月末日頃から同年六月七日までの期間中、ダイエーの担当者多数が事情聴取を受けざるをえない状況を招来せしめ、迷惑を掛けたが、不起訴処分によりダイエーの信用を毀損する可能性は消滅したので、取引の再開を願いたいことなどを記載した書面(甲第一〇八号証)を送付し、株式会社福岡玉屋の担当者(乙第八号証の1)、その他の取引先(乙第八号証の2)にも、同様の趣旨を記載した書面を送付した。

これに対し、被告は、松本弁護士との連名で、同年六月末頃、「原告らから被告及び被告代表者を誹謗する書面が送付されているようなので、反論かたがた報告する。被告が原告らを不正競争防止法違反で告訴したのに対し、原告らは被告代表者を誣告罪、名誉毀損罪で逆告訴した。この度、確かに大阪地方検察庁から本件告訴につき『不起訴処分』の通知を受けたが、不起訴の理由は、不正競争防止法違反としては証拠がいま一つ不十分であるということで、原告西森が主張しているような理由ではない。誣告罪、名誉毀損罪については、担当検事から、原告西森側の告訴代理人の弁護士に告訴を取り下げるよう勧告しているとの報告を受けている。また、原告らは損害賠償請求を大阪地方裁判所に提起しており、これは、当社が行った不正競争防止法に基づく告訴が不法行為に該当するというものであるが、原告西森側が当社の販売した『KING』『BULBUL』の偽物を販売したことは間違いのない事実であり、原告西森側の主張は全く理由がない。この件について当社と原告西森側とで再三話合いを行ったが、西森側が再三無茶な要求をしてきたので、話にならず決裂し、民事裁判を継続することになった。当社には全く落度がないので必ず勝訴するものと確信しており、毅然とした態度で裁判に臨むつもりである。」という内容の書面(甲第一〇六号証)を取引先に送付した。

八  また、被告は、同年七月、株式会社ナカジマコーポレーションを訪ね、乙第四号証掲載のDW-五〇九・五一一は同社のぬいぐるみ「ブルカポネ」の模造品である旨を告げ、同社から、「ブルカポネ」の意匠公報の送付を受けるとともに、右DW-五〇九・五一一は同社のぬいぐるみ「ブルカポネ」の模造品であることに間違いない旨記載した書面の送付を受けた(乙第六号証の1・1の2)。

同様に、被告は、同じ頃、株式会社サンアローに対し、乙第四号証掲載のDW-五〇二は同社のぬいぐるみ「マック」の模造品である旨を告げ、三英貿易株式会社に対し、同じくDW-五〇一は同社のラッコのぬいぐるみの模造品である旨を告げ、株式会社吉徳に対し、DW-三二五は同社のぬいぐるみ「トップガン」の、DW-五〇四は同社のぬいぐるみ「キャンディ」の模造品である旨を告げ、それぞれ各社から模造品であることに間違いない旨記載した書面を受け取り(乙第六号証の2~4)、更に、平成四年一二月、オリエンタルトーイ株式会社に対し、DW-五〇三は同社のぬいぐるみ「うめ吉」の模造品である旨を告げ、平成五年二月、株式会社つるや人形研究所に対し、DW-五〇八・五一〇は同社のぬいぐるみ「ゴリ丸」の模造品である旨を告げ、それぞれ、その頃各社から模造品であることに間違いない旨記載した書面を受け取った(乙第六号証の5・6)。

九  平成三年一〇月頃、被告は、前記六の行為につき信用毀損業務妨害罪で原告西森を大阪府南警察署に再告訴した(本件再告訴)。

前記原告らがした誣告罪による告訴については、同年一二月二五日、不起訴処分がなされた(甲第一二〇号証)。

一〇  原告西森は、平成五年一〇日過頃から六月初めまでの間、「事実確認依頼書」なる文書を左記のとおり送付した(日付は受取日)。

五月一二日 株式会社そごう取締役神戸店次長野村克彦(甲第一七〇号証)

一三日 株式会社大丸代表取締役下村正太郎(甲第一七一号証)

株式会社平和堂商品部長古川勝敏(甲第一七二号証)

一七日 寺内株式会社代表取締役寺内幸夫(乙第三八号証)

一八日 株式会社ニチイ代表取締役小林敏峯(甲第一七四号証)

二二日 株式会社岩田屋代表取締役中牟田健一(甲第一七三号証の1)

株式会社井筒屋代表取締役木原文吾(同号証の2)

株式会社黒崎そごう店次長水島俊行(同号証の3)

株式会社山形屋代表取締役岩元恭一(同号証の4)

株式会社福岡玉屋代表取締役田中丸善亮(同号証の6)

二四日 株式会社寿屋代表取締役石井丈一(同号証の5)

六月 四日 株式会社近鉄百貨店代表取締役田中太郎(甲第一七九号証)

第五  当裁判所の判断

右第四認定の事実経過を前提に、原告らの被告に対する本訴請求及び被告の原告西森に対する反訴請求の当否について、以下順次判断する。

一  被告による本件告訴について

1  原告らは、被告らが原告ら三名を告訴した行為をもって不法行為に該当すると主張するものであるところ、本件のように行為者を特定して犯罪事実を申告する告訴は、犯罪の捜査の端緒を与えるものであり、犯罪者の検挙という公益にそうものではあるが、反面、犯罪を犯したとして告訴された者は、一応の犯罪の嫌疑を受け、捜査機関の捜査の対象となり、人権を侵害されるおそれがあるから、特定人が犯罪を犯したとして告訴するについては、特に慎重な注意を要するというべきである。もとより、結果的に特定人が犯罪を犯したと認められた場合には、告訴した者が責任を負ういわれはないが、特定人が犯罪を犯したものとは認められないのに、合理的理由もなく特定人を犯罪者として告訴した者は、不法行為上の責任を負い、告訴によって当該特定人が被った損害を賠償すべきものといわなければならない。但し、告訴する者は、捜査機関のように捜査の権能を有しないから、相当の理由に基づいて当該特定人が犯罪を犯したものと信じて告訴した場合には、不法行為の責任を負わないものというべきである。

本件告訴は、最終的に検察官の「嫌疑不十分」を理由とする不起訴処分に終わっているので、原告らが被告の申告した犯罪行為を犯したものであるかどうかについて、判断する。

2  本件告訴は、前認定の事実によれば、原告西森が代表取締役として経営している原告両会社が原告商品ゴリラ及び原告商品ブルドッグを製造販売していることにつき、被告の製造販売している被告商品キング及び被告商品ブルブルと全く同一の偽のぬいぐるみを製造販売し商品主体混同行為をなしたものであり、不正競争防止法五条二号に該当すると思料するので厳重処罰を求める、というものであるから、原告らの行為が、「不正の競争の目的をもって」、同法一条一項一号にいう「日本国内(本法施行の地域内)において広く認識せらるる他人の氏名、商号、商標、商品の容器包装その他他人の商品たることを示す表示と同一若しくは類似のものを使用し又は之を使用したる商品を販売、拡布若しくは輸出して他人の商品と混同を生ぜしむる行為」に該当するというものであることが明らかである。

右の「日本国内において広く認識された他人の商品たることを示す表示」すなわちいわゆる周知の商品表示については、被告商品キング及び被告商品ブルブルのそれぞれの形態自体をもって右周知の商品表示に該当すると主張するものであることは、右本件告訴の内容及び本件訴訟における被告の主張に照らして明らかである。

そこで、まず、被告商品キング及び被告商品ブルブルの形態自体が、周知の商品表示といえるかどうかについて検討する。

なお、商品の形態の商品表示性、周知性が問題となる人的範囲については、取引業者と一般消費者とが考えられるが、原告両会社又は被告が取引先にぬいぐるみを販売する場合、取引口座を設け、取引先から原告両会社又は被告の会社名、取引口座番号、上代、納入価格、納期、商品分類等を記載した発注書を受け取り、取引先指定の納入伝票に同様の事項を記載して納品するものであり(原告西森の供述〔第八回口頭弁論期日〕、被告代表者の供述〔第一八回口頭弁論期日〕)、原告両会社と被告の会社名も紛れるものではないから、取引業者が被告から被告商品を購入するつもりで原告両会社から原告商品を購入するというような混同は考えられず、現にそのような混同はないものと認められる(被告代表者の供述〔第一八回口頭弁論期日〕)から、本件においては、一般消費者のみが問題となる。

(一) 不正競争防止法一条一項一号にいう周知の商品表示になりうる表示として掲げられているもののうち、商品の容器、包装は、本来は商品の出所を表示するものではないが、その形状や模様等が他者の商品と識別しうる特徴を有する場合には、出所の表示を本来の機能とする氏名、商号、商標と同様に、出所表示機能を取得し、商品表示となりうるものである。そして、氏名、商号、商標やこのように第二次的に商品表示性を取得した容器、包装が、特定の者によって長年にわたって排他的に使用され、又は短期間でも強力に宣伝広告されることにより、周知性を獲得すれば、周知の商品表示として同条による保護を受けられることになる。

本件のような動物のぬいぐるみの形態は、その製品としての性質上、可愛らしさ、ユーモラスな感じ、本物に近いリアル感等を表すために適宜選択されるものであり、本来は、商品の出所を表示するものではない。消費者はその形態の可愛らしさ、ユーモラスな感じ、本物に近いリアル感等の故に当該ぬいぐるみを選択、購入するのであって、その形態を見て特定人の商品であるという理由で選択、購入するものではない。また、実在する動物を模したぬいぐるみである以上、その形態の選択の範囲には自ずと限界があり、ある程度類似することも避けられないところである。しかし、そのぬいぐるみの形態が、他者のぬいぐるみと比べて独自の特徴を有し、それが長年にわたり特定の者によって排他的に使用され、又は短期間でも強力に宣伝広告された場合には、第二次的に特定の者の商品であることを示す出所表示機能を取得し、周知性を獲得するに至ることはありうるところである。

(二) (被告商品キングについて)

(1) そこで、被告商品キングの形態をみるに、被告は、類人猿であるゴリラの雄に人間の父親が持っているたくましさと威厳を表現させるべく、動物園に度々行って観察し、種々試作を繰り返し、布地の選択、配色に苦慮し、それぞれ試作をして各部分部分を決定し、またその総合の調和をとるのに試行錯誤を繰り返し、非常な苦心を重ねて、約一年をかけて製品化したものであると主張し、その苦心した具体的な点として、「イ 頭部は従来のゴリラの頭部が丸みを帯びていたのに対し、段階をつけることによって力強さを表現した。ロ 眉は、たくましさを表すために、顔面に比較して大きすぎるぐらい太くした。ハ 鼻の穴の表現に苦労した。ニ 口は、父親の威厳を表すために「への字」にした。ホ 顎は、威厳を表現するために、胴体に埋もれるようにした。ヘ たくましさを表現するために、首をなくし、頭部から直接肩を出し、いかり肩にした。ト 腕・手は、力持ちということを表現するために、先に行くに従って太くし、また、自由に動かしてポーズがとれるような工夫をし、掌を内側に曲げ、両足の中に入れられるようにして動きを出した。チ 足は、手とのバランスをとることに苦心して、外向きではなく内側斜めにした。リ 背中は、頼り甲斐のある力強さを表現するために、頭部に比ベグンと広くした。ヌ 尻は、安定感を持たせドッシリしたものにするため、凹みを持たせず、平らに大きくした。」と主張する。

しかし、別紙(二)の〈1〉ないし〈4〉の写真及び検乙第一号証の1によれば、なるほど、被告の主張する父親の持つたくましさと威厳という感じはある程度表現されているとは認められるものの、実在するゴリラの形態を模したぬいぐるみとしての域を出るものではなく、際立った特異性があるとまでは認められない。また、苦心した具体的な点として主張するイないしヌの点についても、甲第九七号証の(二)ないし(五)、甲第一三〇号証によれば、原告ら主張の別表(G)(但し、下から一段目及び四段目を除き、三段目中のBを削除する。)及び別表(G)ノ(二)(最下段を除く。)のように、いずれも被告商品キングの発売より前に発売されたゴリラのぬいぐるみである、昭和六〇年頃発売の株式会社つるや人形研究所の「ゴリ丸」、昭和六一年七月二五日頃発売のプレーネ株式会社の「ポーズゴリくん」、同年一〇月二五日頃発売の株式会社ゆりや工房の「ジッパー・ウイルソン」、昭和六二年三月頃発売の三英貿易株式会社の「パナゴリラ」、同年七月五日頃発売のサンアロー株式会社の「マジカル・マーフィー」(各発売の年月日は右各書証及び弁論の全趣旨により認められる。)に、類似する特徴の存在することが認められる。

(2) 被告商品キングの販売数量について、被告は、昭和六二年九月末日の発売から原告商品ゴリラが出て売れなくなった(以後製造販売を中止した)昭和六三年二月末日までの四、五か月の間に、Mサイズ(上代一万円)を初回二四〇〇個、二回目四八〇〇個の合計七二〇〇個、Sサイズ(上代五〇〇〇円)を一万四四〇〇個、Lサイズ(上代二万円)を三六〇〇個、以上合計二万五二〇〇個の全部を取引先に納入したと主張し、被告代表者の供述(第一八回口頭弁論期日)中にはこれにそう部分があるが、ヒット商品であると主張するにしては、右合計の販売数量を裏付けるに足る資料は全くなく、約二〇〇〇店ある取引先別の販売数量については大口の取引先(大口の取引先とそれ以外の取引先との区別があるとして)に対するものも主張立証がないから、右被告代表者の供述は採用することができず、他に被告商品キングの販売数量を確定するに足る証拠は存しない(被告は、昭和六三年九月一二日に商品主体混同行為という不正競争防止法違反による本件告訴をしていたのであるから、当然被告商品キングの販売数量についての証拠資料は揃えていたはずであり、本件告訴事件の結果が出る前の平成二年一一月一九日に原告らが本件訴訟(本訴)を提起し、その訴状副本が同月二八日に被告に送達されているのであるから、右販売数量についての証拠資料は保存されていて当然である。)。

また、甲第一八一号証の1ないし10、第一八二号証の1ないし8(業界雑誌「旬刊ファンシー」の昭和六二年三月一五日号から昭和六三年九月二五日号まで)によれば、右期間内に被告商品キングがヒット商品になっているとかよく売れているとして被告商品キングを採り上げた記事は全く見当たらず、一方、被告商品キングの発売から一か月後の昭和六二年一一月一日現在のぬいぐるみランキングベスト二〇において(甲第一八一号証の5)、いずれもゴリラのぬいぐるみであるつるや人形研究所の「ゴリ丸」が六位に、サンアローの「マジカル・マーフィー」が七位に、プレーネ株式会社の「ポーズゴリくん」が同率一五位にランクされていること、同年一二月五日号(甲第一八一号証の8)において、つるや人形研究所の「ゴリ丸」が売筋商品になっており品薄状態になっているとの記事が掲載されていること、同月一五日号(甲第一八一号証の9)において、ぬいぐるみとしては「ゴリ丸」が二番目に多く売れているとの福島市内の小売店の記事が掲載されていることが認められ、また、甲第四三号証によれば、業界雑誌「ファンシーショップ」昭和六三年二月二五日号(三月号)には、昭和六二年末のぬいぐるみのクリスマス商戦は全般に厳しかったが、「マジカル・マーフィー」は春、夏から大ヒットしていて、クリスマス商戦でも売上げに大貢献したとの記事が掲載されていることが認められる。

(3) 被告商品キングの宣伝広告について、まず、ぬいぐるみに関する四大業界雑誌(原告西森の供述〔第九回口頭弁論期日〕)であると認められる前記旬刊ファンシー・前記ファンシーショップ・月刊キッズライフ・ギフトパート2への広告の掲載をみるに、甲第三四、第三六号証及び原告西森の供述(第九回口頭弁論期日)によれば、原告西森が集められるだけのものを集めた昭和六一年五月から平成元年二月までの間の右四大業界雑誌において、被告商品キングの広告は一回だけ(月刊キッズライフ昭和六二年九月号の「主力商品カタログ」の中に他社製の多数のぬいぐるみとともに)掲載されていることが認められ、他の新聞、雑誌等にその広告が掲載されたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

甲第一六〇号証及び被告代表者の供述(第一六回口頭弁論期日)によれば、被告は、昭和六二年九月開催の地域玩具見本市(北海道・東北・東京・名古屋・大阪・中四国・西日本の各地で開催)及び昭和六三年二月に東京晴海で開催されたギフトショーに被告商品キングを出品したことが認められるが、その他の年度、その他の見本市等に被告商品キングを出品したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

パンフレット等について、乙第二一号証の1・2には被告商品キングが掲載されているが、これは、昭和六三年五月頃に印刷された(その裏表紙の記載による)被告の一九八九年(平成元年)用の総合カタログであり、被告代表者の供述(第一六回口頭弁論期日)によれば、被告商品キングを掲載したカタログはこれが最初のものであると認められるので、被告商品キングの販売当時あるいは本件告訴当時の商品表示性、周知性を立証するための証拠としては適切でない。乙第二二号証は、被告代表者の供述(前同)によれば、雑誌に掲載された被告商品キングの広告(一頁分)をそのまま雑誌社に一万枚印刷してもらい、チラシとして使用し、前記昭和六二年九月開催の地域玩具見本市において配付したものと認められる。その他に被告商品キングに関するカタログ、チラシ等を作成、配付したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

以上の四大業界雑誌への広告掲載、見本市等への出品、パンフレット等の枚数によれば、被告が被告商品キングの宣伝を強力に行ったとは到底いえない。のみならず、これらはいずれも主として取引業者を対象とするものであり、一般消費者の間における商品表示性、周知性の立証の資料としては適切でない。

(三) (被告商品ブルブルについて)

(1) 次に、被告商品ブルブルの形態をみるに、被告は、グロテスクな犬であるブルドッグを可愛らしく表現し、飾り物としてだけではなく、クッション化を念頭に製作を思いついたものであり、ブルドッグをぬいぐるみ、クッション化するのは至難であり、何人も思いつかないものであって、クッション化のために、頭と胴体を同一の大きさに平行にしてバランスをとることは特に難しく、初めての試みといえると主張し、その苦心した具体的な点として、「イ 目は、白眼を入れるにもその角度によって可愛らしさが違い、黒眼との大きさのバランスを考えて種々試作して決定した。ロ 瞼は、ユーモラスにするために、あえて入れた。ハ 鼻は、顔全体とバランスをとるのに非常に苦心した。ニ 口は、ブルドッグのイメージを出すために、あえて二重にした。ホ 舌は、明るさを出すために、顔の茶色に赤いベロをつけたものであり、この配色についても種々試作して決定した。ヘ 耳は、ブルドッグは短いのが普通であるが、可愛らしさを表すためとクッション化のために、広く長くした。ト 足は、クッション化のために、がに股にした。チ 尾は、クッション化を前提としたので、やわらかくし邪魔にならないように小さくした。リ リボンは、可愛らしさを表すために、特別に注文して大きくし、色柄についても苦心した。」と主張する。

しかし、別紙(四)の〈1〉ないし〈5〉の写真及び検乙第三号証の1によれば、なるほど、被告の主張する可愛らしさは表現されているとは認められるものの、実在するブルドッグの形態を模したぬいぐるみとしての域を出るものではなく、際立った特異性があるとまでは認められない。また、苦心した具体的な点として主張するイないしリの点についても、甲第八七号証、第八八号証の(一)、甲第九七号証の(三)・(四)、第九八号証の(一)、乙第二〇号証の(三)によれば、原告ら主張の別表(S)(最下段を除く。)及び別表(S)ノ(二)(下から一段目、二段目、三段目を除く。)のように、前示のとおり原告西森の経営していた株式会社ロンが昭和四四年頃に製造販売していたぬいぐるみ「スネブル」のほか、いずれも右各号証及び弁論の全趣旨により被告商品ブルブルの発売より前に発売されたと認められるユージン、セキグチ、マイケルズペッツ(「ブル」)、つるや人形研究所(「ぶるっぺ」)の各ブルドッグのぬいぐるみに、類似する特徴の存在することが認められる。

(2) 被告商品ブルブルの販売数量について、被告は、昭和六三年三月一九日頃の発売から原告商品ブルドッグが出て売れなくなった(以後製造販売を中止した)同年七月までの四、五か月の間に、Sサイズ(上代二五〇〇円)を初回、二回目とも三六〇〇個の合計七二〇〇個、Mサイズ(上代五〇〇〇円)を三六〇〇個、Lサイズ(上代一万円)を一八〇〇個、以上合計一万二六〇〇個の全部を取引先に納入したと主張し、被告代表者の供述(第一八回口頭弁論期日)中にはこれにそう部分があるが、被告商品キングについて同様、ヒット商品であると主張するにしては、右合計の販売数量を裏付けるに足る資料は全くなく、約二〇〇〇店ある取引先別の販売数量については大口の取引先(大口の取引先とそれ以外の取引先との区別があるとして)に対するものも主張立証がないから、右被告代表者の供述は採用することができず、他に被告商品ブルブルの販売数量を確定するに足る証拠は存しない(右販売数量についての証拠資料が保存されていて当然であることは、被告商品キングについて述べたところと同様である。)。

また、前掲甲第一八一号証の1ないし10、第一八二号証の1ないし8(「旬刊ファンシー」昭和六二年三月一五日号から昭和六三年九月二五日号まで)によれば、右期間内に被告商品ブルブルがヒット商品になっているとかよく売れているとして被告商品ブルブルを採り上げた記事は全く見当たらず、一方、被告商品ブルブルの発売から約二か月後の昭和六三年五月一五日号(甲第一八一号証の8)において、犬のぬいぐるみとしては、サンアローの「サンデー」、セキグチの「ウインドホッパー」、あるいはナカジマコーポレーションの「長毛犬」(中でも、「シープドッグ」は二万円もするが、月に一〇頭も売れる旨記載されている。)がよく売れているとの各小売店の記事が掲載されていることが認められる。

(3) 被告商品ブルブルの宣伝広告について、前記のとおりぬいぐるみに関する四大業界雑誌である旬刊ファンシー・ファンシーショップ・月刊キッズライフ・ギフトパート2への広告の掲載をみるに、甲第三八号証、乙第四一、第四二号証及び原告西森の供述(第九回口頭弁論期日)によれば、原告西森が集められるだけのものを集めた昭和六二年一月から平成元年八月までの間の右四大業界雑誌において、被告商品ブルブルの広告は三回(月刊キッズライフ昭和六三年四月号、旬刊ファンシー昭和六三年四月二五日号、同昭和六三年六月一五日号)掲載され、また、トイズマガジン昭和六三年四月号に一回掲載されたことが認められ、他の新聞、雑誌等にその広告が掲載されたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

被告代表者の供述(第一六回口頭弁論期日)によれば、被告は、昭和六三年二月に東京晴海で開催されたギフトショーに被告商品ブルブルを出品したことは認められるが、その他の年度、その他の見本市等に被告商品ブルブルを出品したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

パンフレット等について、乙第二一号証の1・2には被告商品ブルブルが掲載されているが、これは、前示のとおり昭和六三年五月頃に印刷された被告の一九八九年(平成元年)用の総合カタログであり、被告代表者の供述(第一六回口頭弁論期日)によれば、被告商品ブルブルを掲載したカタログはこれが最初のものであると認められるので、被告商品ブルブルの販売当時あるいは本件告訴当時の商品表示性、周知性を立証するための証拠としては適切でない。乙第二三号証は、被告代表者の供述(前同)によれば、雑誌に掲載された被告商品ブルブルの広告(一頁分)をそのまま雑誌社に一万枚印刷してもらい、チラシとして使用し、前記昭和六三年二月開催のギフトショーにおいて配付したものと認められる。その他に被告商品ブルブルに関するカタログ、チラシ等を作成、配付したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

以上の四大雑誌等への広告掲載、見本市等への出品、パンフレット等の枚数によれば、被告が被告商品ブルブルの宣伝を強力に行ったとは到底いえない。のみならず、これらは、主として取引業者を対象とするものであり、一般消費者の間における商品表示性、周知性の立証の資料としては適切でない。

(四) 右(二)及び(三)に説示したように、被告商品キング及び被告商品ブルブルの形態自体に被告商品に先行するぬいぐるみと比較して際立った特徴があるとはいい難いこと、被告商品の販売数量を確定するに足る証拠がなく、その主張する販売期間もわずか四、五か月程度にすぎず、業界雑誌において、他社製のゴリラのぬいぐるみ又は犬のぬいぐるみについてはよく売れている旨の記事が掲載されているのに、被告商品についてはそのような記事は全く見当たらないこと、被告商品の宣伝広告の内容及び回数に照らすと、被告商品キング及び被告商品ブルブルのそれぞれの形態自体が、一般消費者の間において第二次的に出所表示機能を取得したとは到底認められず、ましてそれが周知性を獲得したということはありえないといわなければならない。

すなわち、被告商品キング及び被告商品ブルブルの形態自体は、不正競争防止法一条一項「号にいう周知の商品表示に該当しないことは明らかである。

被告商品キング及び被告商品ブルブルの意匠について、被告のした意匠登録出願に基づいていずれも平成元年二月二二日に意匠登録がなされたことは、制度の趣旨が異なるから、右認定を覆すに足りない。

また、前記のとおり、昭和六三年八月、株式会社そごうホップ・営業第三課、株式会社西武百貨店・商品事業部趣味雑貨部関西北陸担当、寺内株式会社・第三セクション、株式会社ペリカン・商品統括部第二商品部の各担当者は、被告の担当者大橋弘幸と面談したうえ、同人の依頼により、「株式会社ファーストが製造販売している通称『キング』及び『ブルブル』というぬいぐるみは、業界でもファーストの製品であるという事を「目瞭然の事実として皆から認められています。業界でもヒット商品の一つとして数えられており、偽物が出回るという事は業界にとって大変迷惑な事であり、厳重なる取締りをお願いする次第である。」という内容の書面を作成して右大橋に交付しているが、右各書面は、同人から案文を示されて記載したものであり、各店においてどれぐらいの数の被告商品キング及び被告商品ブルブルが売れたのかという具体的な販売数量の記載もないから、前記認定を覆すに足りない。

3  右のように、被告商品キング及び被告商品ブルブルの形態自体が不正競争防止法一条一項一号にいう周知の商品表示としての保護を受けられない以上、その余の点について判断するまでもなく、原告らが被告の申告した、不正競争の目的をもって同条同項同号の商品主体混同行為の罪を犯したといえないことは明らかであり、したがって、被告は、原告らが右犯罪を犯したものとは認められないのに、右犯罪を犯した者として原告らを告訴したことになる。

そこで、前記1に説示したところに従い、被告において原告らが右商品主体混同行為の罪を犯したものと信じて本件告訴をしたことにつき相当の理由があったかどうかについて検討するに、前記2に説示したような事情に照らせば、被告の主観的な考えはともかく、到底右相当の理由があったということはできない。

本件告訴事件の不起訴処分の理由が「嫌疑不十分」であったこと、原告西森が本件告訴により、平成二年一月から同年八月までの間に合計二一、二回にわたり大阪府南警察署の取調べを受けたことも、右判断を左右するものではない。

したがって、被告による本件告訴について原告らに対する不法行為が成立し、被告は原告らに対し本件告訴と相当因果関係にある損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

4  なお、原告らは、本件告訴に先立ち、被告が代理人松本泰次弁護士作成の同年三月三日付内容証明郵便により、原告ハンドハウスに対し、「警告人(被告)は、通称『KING』というゴリラのぬいぐるみ(被告商品キング)の意匠登録を昭和六二年七月二七日に特許庁長官に対してなし、同庁より六二-〇二七四二八号として既に受理されている。しかるに、被警告人(原告ハンドハウス)は右ゴリラと全く同一の偽のぬいぐるみを製造し、松屋デパート等で販売している。被警告人の右の行為は意匠法・不正競争防止法に違反しているので、警告人は現在被警告人に対し、民事・刑事の法的手段を採るべく準備中であるが、とりあえず、直ちに右ぬいぐるみの製造販売を中止するよう警告する。」との警告書を送付した行為も、不法行為を構成すると主張する。

確かに、被告商品キングの意匠につき意匠登録出願をしたというだけでは、仮に原告商品ゴリラの意匠がこれに類似するものであったとしても、原告商品ゴリラの製造販売を禁止できるような権利は未だ発生していないのであるから、右警告書のうち、意匠法に違反するから直ちに原告商品ゴリラの製造販売を中止するよう警告するとの部分は、明白な誤りであり、まことに不注意な記載といわなければならず、また、不正競争防止法に違反するとの部分も、不正競争防止法の何条の不正競争行為に該当するとするのか不明であり、本件告訴状において明らかにしたように同法一条一項一号の商品主体混同行為に該当するとの趣旨であるとしても、右に該当しないことは前示のとおりであるから、右警告書の送付行為は不当なものといわなければならない。しかし、右警告書は意匠法違反、不正競争防止法違反をしていると被告が名指している当の原告ハンドハウスに対して送付されたものであって、他の第三者に対して送付されたものではなく、格別原告ハンドハウスないし原告らの営業上の信用を害したものとはいえないから、右送付の事実のみをもって原告らに対する不法行為を構成するとまでいうことはできない。

二  昭和六三年における松屋百貨店浅草支店等に対する虚偽事実の陳述について

1  昭和六三年二月中頃、被告代表者が松屋百貨店浅草支店の柳瀬課長と面談し、「被告商品キングは意匠登録出願をしていて、近くその登録が下りる自信もあるが、このような意匠法違反、不正競争防止法違反の模造品(原告商品ゴリラ)を扱われては、被告商品キングが全然売れなくなるので、模造品を撤去していただきたい。」旨述べたことは前記第四の二認定のとおりである。

すなわち、被告代表者は、被告の取引先で原告両会社の取引先でもある松屋百貨店浅草支店の担当者に対し、原告商品ゴリラは被告商品キングの模造品であり、原告商品ゴリラを販売することは意匠法、不正競争防止法に違反する旨陳述したものであるが、被告商品キングの意匠につき意匠登録出願をしたというだけでは原告商品ゴリラの製造販売を禁止できるような権利は未だ発生していないし、被告商品キングの形態自体が不正競争防止法一条一項一号による保護を受けられないものであることは、前説示のとおりである。したがって、原告両会社の取引先である松屋百貨店浅草支店の柳瀬課長に対する被告代表者の陳述は、原告商品ゴリラの製造販売は意匠法違反、不正競争防止法違反(不正競争行為)には当たらないにもかかわらず、これに当たる旨陳述したものであるから、不正競争防止法一条一項六号にいう虚偽の事実を陳述する行為に該当することは明らかである。

そして、原告商品ゴリラの製造販売が意匠法違反、不正競争防止法違反(不正競争行為)に当たるとの事実が競争関係にある原告両会社の営業の信用を害するものであることも明らかである。

右原告両会社の営業上の信用を害する虚偽事実の陳述については前記一3の説示に照らし、被告代表者に過失があったものといわなければならないから、被告は不正競争防止法一条の二第一項、民法四四条一項に基づきこれによって原告両会社が被った損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。

2  次に、被告は、松本弁護士とも相談して原告らを不正競争防止法違反により告訴することに決め、被告の担当者大橋弘幸が、昭和六三年八月、松本弁護士の指示で株式会社そごうホップ・営業第三課、株式会社西武百貨店・商品事業部趣味雑貨部関西北陸担当、寺内株式会社・第三セクション、株式会社ペリカン・商品統括部第二商品部の各担当者と面談したうえ、案文を示して、各担当者に、「株式会社ファーストが製造販売している通称『キング』及び『ブルブル』というぬいぐるみは、業界でもファーストの製品であるという事を一目瞭然の事実として皆から認められています。業界でもヒット商品の一つとして数えられており、偽物が出回るという事は業界にとって大変迷惑な事であり、厳重なる取締りをお願いする次第である。」という内容の書面を作成してもらい、各書面(乙第七号証の1~4)を受け取ったことは前記第四の四認定のとおりである。

原告らは、右各書面の作成依頼の行為は、取引先担当者に対し、原告両会社が他人のヒット商品に便乗してその偽物を販売しているので刑事告訴される悪質な企業である旨の印象を強く与えるものであり、原告両会社の信用を著しく害するものとして、不法行為が成立する旨主張するが、右各書面の作成を依頼するに際し、右大橋がいかなる言葉を述べたかは被告代表者の供述その他本件全証拠によるも必ずしも明らかではなく、右各取引先の担当者が大橋に案文を示されたとはいえ、その内容に賛同した記載内容となっており、意に反して右各書面を作成したというような事情は本件全証拠によるも認められないから、未だ原告両会社に対する不法行為が成立するとまでいうことはできない。

三  平成三年以降における株式会社そごう等に対する虚偽事実の陳述について

1  原告らは、被告が平成三年三月頃、株式会社そごう神戸店に対し、甲第一〇六号証(被告が取引先に頒布した文書)、乙第四号証、乙第六号証の1~4、意匠登録原簿謄本、原告西森の倒産歴事実・公正取引委員会の審査結果・原告西森を業務妨害罪で告訴する旨の告訴事実等に関する各資料を提示して、原告らにつき、「告訴当時意匠登録出願中であったが、現に登録済みの『キング』『ブルブル』の偽物を間違いなく販売していたとして告訴した会社の代表者である原告西森は、ナカジマコーポレーションの『ブルカポネ』等の他社製品の偽物を販売している偽物販売の常習犯であるにもかかわらず、ファーストの取引先各位に対して、ファーストの製品に使用している織ネーム、下げ札表示は法律に違反しているのになぜ販売するのか、と不当な抗議を執拗にしている、倒産歴のある叩けばいくらでもほこりの出る悪質な者であるので、近々警察に告訴するつもりである」旨を陳述し、また、同年三月頃から一一月末日までの間、乙第九号証(枝番省略)の各供述書を作成するために接触した名鉄百貨店等の取引先二六店に対し、右と同様のことを陳述したと主張するが、原告西森の供述その他本件全証拠によるも、右主張の事実を認めるに足りない。

2  次に、被告が、平成三年七月、株式会社ナカジマコーポレーションを訪ね、乙第四号証掲載のDW-五〇九・五一一は同社のぬいぐるみ「ブルカポネ」の模造品である旨を告げ、同社から、「ブルカポネ」の意匠公報の送付を受けるとともに、右DW-五〇九・五一一は同社のぬいぐるみ「ブルカポネ」の模造品であることに間違いない旨記載した書面の送付を受けたこと、同様に、被告が、同じ頃、株式会社サンアローに対し、乙第四号証掲載のDW-五〇二は同社のぬいぐるみ「マック」の模造品である旨を告げ、三英貿易株式会社に対し、同じくDW-五〇一は同社のラッコのぬいぐるみの模造品である旨を告げ、株式会社吉徳に対し、DW-三二五は同社のぬいぐるみ「トップガン」の、DW-五〇四は同社のぬいぐるみ「キャンディ」の模造品である旨を告げ、それぞれ各社から模造品であることに間違いない旨記載した書面を受け取り、更に、平成四年一二月、オリエンタルトーイ株式会社に対し、DW-五〇三は同社のぬいぐるみ「うめ吉」の模造品である旨を告げ、平成五年二月、株式会社つるや人形研究所に対し、DW-五〇八・五一〇は同社のぬいぐるみ「ゴリ丸」の模造品である旨を告げ、それぞれ、その頃各社から模造品であることに間違いない旨記載した書面を受け取ったことは、前記第四の八認定のとおりである。

原告らは、被告が乙第四号証掲載の各製品がそれぞれ株式会社ナカジマコーポレーション、株式会社サンアロー、三英貿易株式会社、株式会社吉徳、オリエンタルトーイ株式会社、株式会社つるや人形研究所の製造販売しているぬいぐるみの模造品(盗作品)である旨告げた(陳述した)行為につき、不法行為が成立する旨主張するが、右行為は、被告が原告らによって模造されたと考える原製品であるぬいぐるみの、当の製造販売者自身にその旨陳述するものであるにとどまり、それ以上に、他の第三者にその旨陳述するものではないから、直ちに不法行為が成立するとまでいうことはできない。

四  信用毀損業務妨害罪による原告西森に対する本件再告訴について

1  平成三年三月から一〇月までの間、原告西森又は原告両会社の従業員が、面談又は電話により、別表(一)の被告の取引先の担当者に対し、被告商品は不正競争防止法によって保護されるものではなく、本件告訴は誣告に当たるので大阪地方検察庁に告訴している旨説明するとともに、被告が被告の製造販売する商品に使用している表示は、他人の商標権の侵害、品質の誤認表示に該当するものであり、原告らがその使用差止めを請求している訴訟で勝訴すれば、不正競争防止法違反についてはその商品の販売者も責任を負わねばならない旨を説明したことにつき、平成三年一〇月頃、被告が信用毀損業務妨害罪で原告西森を大阪府南警察署に再告訴したこと(本件再告訴)は、前記第四の六及び九認定のとおりである。

2  原告らは、本件再告訴は、原告西森は被告が使用している表示の違反事実を摘示してその表示のある製品の撤去問題等に関して取引先に陳述することは何らしていないにもかかわらず、あたかも原告西森が右の諸点について取引先に陳述し、もって被告の営業を妨害したかのように偽ってなしたものであり、仮に原告西森が被告使用の表示の問題に言及したとしても、被告がその商品に使用している表示は他人の商標権の侵害とみなされる商標の使用、商品の生産地・販売地の虚偽表示、品質を誤認せしめる虚偽表示に該当するような外形的事実があることは真実であるから、虚偽の陳述行為には該当しないものであり、したがって、被告による本件再告訴は、事実的、法律的根拠を欠くものであり、原告西森に対する不法行為を構成するものである旨主張する。

まず、原告西森又は原告両会社の従業員が、面談又は電話により、別表(一)の被告の取引先の担当者に対し、被告が被告の製造販売する商品に使用している表示は、他人の商標権の侵害、品質の誤認表示に該当するものである旨を説明したというのであるから、原告西森が被告が使用している表示の違反事実を摘示したことは明らかであり、また、原告らがその使用差止めを請求している訴訟(本件訴訟)で勝訴すれば不正競争防止法違反についてはその商品の販売者も責任を負わねばならない旨を説明したことは、取りも直さず、原告らが各取引先の責任を追及する可能性のあることを表明し、間接的に被告の商品を取り扱わないように示唆するものであることは明らかである。

そこで、次に、被告がその商品に使用している表示は他人の商標権の侵害とみなされる商標の使用、商品の生産地・販売地の虚偽表示、品質を誤認せしめる虚偽表示に該当するような外形的事実があるかどうかについて検討する。

3  原告らが右のように他人の商標権の侵害とみなされる商標の使用、商品の生産地・販売地の虚偽表示、品質を誤認せしめる虚偽表示に該当するとしている被告使用の表示は、本件訴訟(本訴)の第三当事者の主張六1において、原告らが被告に対し使用の差止めを求めている表示を指すものと解されるので、これについて検討する。

(一)(本件織ネームについて)

(1) まず、本件織ネームに記載されている「REG. OHIO PA. 799 MASS. 463 MAINE 770」は、アメリカのオハイオ州、マサチュセッツ州、メイン州で販売する場合に必要な登録の登録番号を表示したものであるが、我が国の流通業者及び一般消費者にはその意味するところが全く認識されていないものと認められる(被告代表者の供述〔第一八回口頭弁論期日〕、原告西森の供述〔第一〇回口頭弁論期日〕)。

そして、被告は昭和六〇年頃まではこれらの州を含むアメリカに商品を輸出していたものの、昭和六〇年頃以降は、円高の関係でアメリカには一切輸出していないことが認められる(被告代表者の供述〔第一八回口頭弁論期日〕)。

原告らは、右登録番号の表示は、我が国においてはこれと同一又は酷似する表示はアメリカを中心とする世界的な著名製品にしか使用されていないことから、スヌーピー等の世界的著名製品が有している品質保証機能を示す表示として想起、認識されるおそれが大きいから、品質誤認表示に当たると主張するところ、被告代表者は、現在は商品をアメリカに輸出していないものの、いつ為替相場の変動により輸出できるようになるかもしれないので、いつでも輸出できるよう登録番号を表示している旨供述するが(第一八回口頭弁論期日)、何となく高級品のイメージを与えるものであり、現在輸出していない以上、不適切な表示といわざるをえない。しかし、右のとおり我が国の流通業者及び一般消費者にはその意味するところが全く認識されていないのであり、スヌーピー等の世界的著名製品が有している品質保証機能を示す表示として想起、認識されるおそれが大きいとも認められないから、品質誤認表示に該当するとまでいうことはできない。

(2) 本件織ネームのうちの「EXCELLENT」(織ネーム〈2〉〈4〉〈5〉)又は「ファースト」(織ネーム〈1〉〈3〉)の表示について、原告らは、自他商品識別機能及び出所表示機能を果たしえない標章であるばかりか、逆に品質の誤認を生ぜしめるものであると主張するが、仮に自他商品識別機能を及び出所表示機能を果たしえないとしても、だからといって直ちに品質誤認表示に該当することにならないことはいうまでもなく、「ファースト」は、被告の商号又は商標にすぎず、また、「EXCELLENT」と表示したからといって一定の品質を保証するものではないから、品質誤認表示に該当するとはいえない。

(3) 「MADE IN JAPAN」(織ネーム〈1〉〈2〉)、「MADE IN THAILAND」(織ネーム〈3〉〈5〉)、「MADE IN KOREA」(織ネーム〈4〉)について、原告らは、他の文字と同じ活字で、普通に用いられる方法で表示されており、他の外国地名及び素材を表示する文字と密接不可分に結合している関係上、単に製品の素材たる織物(ポリエステル合成繊維)の製造地を示すにすぎず、製品自体の製造地を示すものとは解されず、特に「MADE IN THAILAND」(織ネーム〈3〉〈5〉)、「MADE IN KOREA」(織ネーム〈4〉)の表示は、一般的に出所地・製造地の表示が他の表示と独立した位置、態様で明確に表示されているのと異なり、他の外国地名、素材の記載の一部として同じ活字で普通に用いられる方法で表示されているので、「外国で意匠等が権利登録され、外国で生産又は販売されているであろう斬新的素材の優秀製品」で、「アメリカで完成させた外観の縫製品(半製品)を単に日本で加工・完成せしめた実質的外国製品」(織ネーム〈1〉〈2〉)、又は「タイ又は韓国で生産させた織物・ポリエステル及び半製品を輸入してアメリカ又は日本で完成させた製品」(織ネーム〈3〉〈4〉〈5〉)である旨、商品の品質(織ネーム〈1〉〈2〉)又は出所地(織ネーム〈3〉〈4〉〈5〉)の誤認を生ぜしめるものであると主張するが、本件織ネームを見る者は、通常、そのような趣旨に理解することなく、単純に日本製、タイ製、韓国製と理解するものと解されるので、右主張は採用できない。

但し、「MADE IN JAPAN」(織ネーム〈1〉〈2〉)の表示が左側の「ファースト」又は「EXCELLENT」の表示の下に記載されているのに対し、「MADE IN THAILAND」(織ネーム〈3〉〈5〉)、「MADE IN KOREA」(織ネーム〈4〉)の表示が右側の「REG. OHIO PA. 799 MASS. 463MAINE 770」や「ALL NEWMATERIAL」などの記載と一緒に記載されているのは、一応、「MADE IN THAILAND」又は「MADE IN KOREA」と明記されている以上、出所地の誤認を生ぜしめるとまではいえないとしても、タイ製や韓国製であることを分かり難くしていることは明らかであり、被告代表者の供述(第一八回口頭弁論期日)によれば、被告は、日本製であることはイメージがよいので強調し、タイ製や韓国製であることはイメージが悪いのでなるべく目立たないようにするためにこのような表示の仕方をしていると認められるから、不適切な表示の仕方であるといわなければならない。

(二)(本件下げ札について)

(1) 本件下げ札のうち、「KING」(下げ札〈1〉)、「EXCELLENT」(下げ札〈2〉)、「BULBUL」(下げ札〈3〉)、「COTTON FIELDS」(下げ札〈4〉)の各商標について、原告らは、まず、自他商品識別力を有していないと主張するが、仮に自他商品識別力を有していないとしても、だからといって直ちに品質誤認表示に該当することにはならない。

原告らは、「KING」及び「BULBUL」は、他人の商標権を侵害している疑いが強く、加えて、「KING」は、被告商品キングが発売される前に既に我が国の取引者間に著名商号・商標となっていた訴外株式会社キングの商標等と同一又は酷似するものであり、「BULBUL」も、著名会社の訴外服部セイコーの「BULLBULL」と同一又は酷似するものであるから、商品の品質の誤認又は出所の混同を生じさせるものであると主張する。甲第六二号証によれば、訴外星野人形株式会社が「第二四類 おもちゃ、人形」の「王者」なる登録商標につき商標権(登録番号第一一五三一七六号)を有していること、訴外コンビ株式会社が「第二四類 おもちゃ、人形……」の「ブルブル」なる登録商標につき商標権(登録番号第二〇二一〇三七号)を有していることが認められ、甲第一七六号証によれば、訴外株式会社キングジムが「第五〇類 日本紙及び他類に属せざる紙製品。但し、西洋紙、カーボンペーパー及び謄写版用原紙並びにこれ等の類似商品を除く。」の鷲の図柄の中央に「KING」の文字を配した登録商標につき商標権(登録番号第四四〇三一二号)を有していることが認められる。一方、乙第一七号証の1・2及び被告代表者の供述(第一五回口頭弁論期日)によれば、被告は、被告商品キングの「キング」なる商標、被告商品ブルブルの「ブルブル」なる商標の使用につき誰からも異議を唱えられたことはなく、平成四年一月二〇日、右株式会社キングジムとの間で、同社は、被告が被告商品キングに前記登録商標を使用したことに対し、一切の権利主張は行わないものとし、被告は今後被告の取扱商品に前記登録商標を使用しないことを約束する旨の覚書を交わし、また、平成三年一二月一二日、右コンビ株式会社から、同社は前記登録商標について被告使用の「BUL/BUL」に対して一切の権利主張をしないことを確認する旨の確認書を受け取ったことが認められる。したがって、株式会社キングジム及びコンビ株式会社の商標権に関しては、被告がこれらを侵害したということで商標権者から責任を追及されるおそれは現時点では存しないが、株式会社キングジムの商標権についてはもともと指定商品を異にするものであるから問題にならず、一方、コンビ株式会社の商標権については、被告が使用を始める前に予め使用の許諾を得ていたというわけではなく、無断で使用した後に事後的に同社から権利主張をしないことの確認を得たというにすぎず、また、被告商品キングの商標が星野人形株式会社の「王者」なる登録商標に類似するとする余地があり、これについては事前又は事後に使用の許諾を得たとの主張立証がないから、同社から商標権侵害の責任を追及される可能性はあるものといわなければならない。その他、商品の品質の誤認又は出所の混同を生じさせるとの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。

また、原告らは、「EXCELLENT」は被告の使用開始前に既に「卓越した、優秀な」品質の商品を示す語として取引業者間で広く認識されていたから、商品の品質の誤認を生じさせるものであると主張するが、前示のとおり「EXCELLENT」と表示したからといって一定の品質を保証するものではないから、品質誤認表示に該当するとはいえない。

(2) 更に、原告らは、下げ札〈5〉〈6〉は、すべて英文であることから、一緒に使用されている前記のような織ネームによる品質又は出所地の誤認を増幅させるものであると主張するが、その主張自体、独立して品質誤認表示又は出所地誤認表示に該当すると主張するものではないし、単に全文が英文であることだけで不当とすることはできないから、採用できない。

(三) 以上によれば、原告ら指摘の本件織ネーム及び本件下げ札の表示については、不適切な表示というべきものが存在し、また、商標権侵害の疑いが残るものの、いずれも出所地誤認表示又は品質誤認表示には該当しないものといわなければならないから、原告西森につき信用毀損業務妨害罪が成立するかどうかは別として、本件再告訴自体をもって、原告西森に対する不法行為が成立するということはできない。

五  原告らの被った損害について

1  以上説示したところによれば、結局、被告が原告らを不正競争防止法違反により告訴した本件告訴については、原告らに対する不法行為が成立し(前記一)、昭和六三年二月中頃、被告代表者が松屋百貨店浅草支店の柳瀬課長と面談し、「被告商品キングは意匠登録出願をしていて、近くその登録が下りる自信もあるが、このような意匠法違反、不正競争防止法違反の模造品(原告商品ゴリラ)を扱われては、被告商品キングが全然売れなくなるので、模造品を撤去していただきたい。」旨述べたことについては、不正競争防止法一条一項六号に該当するものとして、同法一条の二第一項、民法四四条一項に基づき、これによって原告両会社が被った損害を賠償すべき義務があり(前記二の1)、その余の点については、被告の不法行為は成立しないということになる。

2  そこで、原告らの被った損害について判断するに、原告らは、前記第三の五1記載のとおり、被告の不法行為により原告ハンドハウスにおいて(1)売上げ減少による純損失額一億六七三九万円、(2)未払債務額八八四一万円、(3)逸失利益一億八八五〇万円、(4)慰謝料二〇〇〇万円の合計四億六四三〇万円の損害を、原告ケンアンドロンにおいて(1)売上げ減少による純損失額九一〇〇万円、(2)逸失利益七七〇〇万円、(3)慰謝料二〇〇〇万円の合計一億八八〇〇万円の損害を被り、原告西森において一〇〇〇万円の損害を被ったと主張するが、右1の各行為と相当因果関係のある損害としては、前認定の一切の事情を勘案して、原告ハンドハウスにつき一〇〇万円、原告ケンアンドロンにつき一〇〇万円、原告西森につき二〇〇万円と認めるのが相当である。これを超える分は相当因果関係があるものとは認められない。

六  原告らの被告に対する織ネーム及び下げ札の使用の差止請求等について

本件織ネーム及び本件下げ札のうち原告らが不正競争防止法一条一項四号の出所地誤認表示又は同項五号の品質誤認表示に該当すると主張する点が、いずれもこれに該当しないことは、前記四において説示したとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件織ネーム及び本件下げ札の使用差止め及び廃棄を求める請求は理由のないことが明らかである。

なお、前示のとおり、商標権侵害の疑いは残るが、右不正競争防止法一条一項四号及び五号の問題ではなく、また、そもそも商標権者ではない原告らが差止めを請求しえないことは明らかである。

七  被告の原告西森に対する反訴請求について

1  平成三年三月から一〇月までの間、原告西森又は原告両会社の従業員が、面談又は電話により、別表(一)の被告の取引先の担当者に対し、被告が被告の製造販売する商品に使用している表示は、他人の商標権の侵害、品質の誤認表示に該当するものであり、原告らがその使用差止めを請求している訴訟で勝訴すれば、不正競争防止法違反についてはその商品の販売者も責任を負わねばならない旨を説明したこと、したがって、原告西森が被告が使用している表示の違反事実を摘示したことは明らかであり、また、原告らがその使用差止めを請求している訴訟(本件訴訟)で勝訴すれば不正競争防止法違反についてはその商品の販売者も責任を負わねばならない旨を説明したことは、取りも直さず、原告らが各取引先の責任を追及する可能性のあることを表明し、間接的に被告の商品を取り扱わないように示唆するものであることは前示のとおりである。

しかるに、被告が使用している表示は、商標権侵害の疑いは残るものの、品質の誤認表示に該当しないことも前示のとおりである。したがって、原告西森は、被告使用の表示に不適切な点が存するが故に、客観的には品質誤認表示に該当しない表示につき、過失により品質誤認表示に該当すると判断して、被告の取引先に対し、その旨指摘したうえ、原告らが本件訴訟で勝訴すれば不正競争防止法に基づき被告の取引先の責任を追及する可能性のあることを表明し、間接的に被告の商品を取り扱わないように示唆したものであるから、不正競争防止法一条一項六号に該当するものとして、原告西森は、同法一条の二第一項に基づき、被告が被った損害を賠償すべき義務があるといわなければならない(なお、原告西森は、前記第四の一末段認定の原告両会社の実情に照らせば、原告両会社の従業員の行為についても民法七一五条二項に基づき責任を負うというべきであり、被告の主張はかかる主張も含むものと解される。)。

2  また、原告西森が平成五年一〇月過頃から六月初めまでの間、「事実確認依頼書」なる文書を左記のとおり送付したこと(日付は受取日)は、前記第四の一〇認定のとおりである。

五月一二日 株式会社そごう取締役神戸店次長野村克彦(甲第一七〇号証)

一三日 株式会社大丸代表取締役下村正太郎(甲第一七一号証)

株式会社平和堂商品部長古川勝敏(甲第一七二号証)

一七日 寺内株式会社代表取締役寺内幸夫(乙第三八号証)

一八日 株式会社ニチイ代表取締役小林敏峯(甲第一七四号証)

二二日 株式会社岩田屋代表取締役中牟田健一(甲第一七三号証の1)

株式会社井筒屋代表取締役木原文吾(同号証の2)

株式会社黒崎そごう店次長水島俊行(同号証の3)

株式会社山形屋代表取締役岩元恭一(同号証の4)

株式会社福岡玉屋代表取締役田中丸善亮(同号証の6)

二四日 株式会社寿屋代表取締役石井丈一(同号証の5)

六月 四日 株式会社近鉄百貨店代表取締役田中太郎(甲第一七九号証)

被告は、右送付行為をもって、原告西森の嫌がらせとし、被告に対する不法行為が成立する旨主張するが、具体的にどのような点が被告に対する不法行為となるのか明確には主張していない。

(一) 甲第一七〇号証は、乙第九号証の2の4(被告の大阪店の大橋弘幸が作成した聴取報告書)に、株式会社そごう神戸店の営業第一部部長藤田秀男が大橋に対して供述したと記載されている内容は、真実藤田が供述したものであるかどうかを尋ねて回答を求めるものであり、被告に対する不法行為を構成するものとはいえない。

また、甲第一七一号証は乙第九号証の2の10・3の9の記載内容について、甲第一七二号証は乙九号証の2の8の記載内容について、甲第一七三号証の1は乙第九号証の4の1の記載内容について、甲第一七三号証の2は乙第九号証の4の2の記載内容について、甲第一七三号証の3は乙第九号証の4の3の記載内容について、甲第一七三号証の4は乙第九号証の4の4の記載内容について、甲第一七三号証の5は乙第九号証の4の5の記載内容について、甲第一七三号証の6は乙第九号証の4の6(以上の乙第九号証は、いずれも前同様の被告の従業員の聴取報告書)の記載内容について、それぞれ前同様の回答を求めるものであり、被告に対する不法行為を構成するものとはいえない。

甲第一七四号証、甲第一七九号証も、それぞれ乙第九号証の2の7、同号証の2の3(いずれも被告の大阪店の大橋弘幸が作成した聴取報告書)の記載内容について前同様の回答を求めるものの域を出ず、被告に対する不法行為を構成するものとはいえない。

(二) 乙第三八号証は、長文のものであるが、「事実確認願(一)」として、本件告訴の不当性を述べるとともに、乙第七号証の3の書面(被告が本件告訴状に添付した寺内株式会社・第三セクションの担当者作成の書面)につき、同書面は寺内株式会社が承認したものであるか、担当者は被告商品がヒット商品であるという認識を持たずに書いたものであるのか、担当者は原告らが告訴されるということを、被告から聞いて又は推察して知っていたか、を尋ねて確認を求め、「事実確認願(二)」として、被告が使用している表示は出所地及び品質の誤認を生ぜしめるおそれがあるので、原告らが大阪地方裁判所に差止請求訴訟を提起済みであるとして、本訴中の差止請求の部分の請求原因の概略を述べ、乙第九号証の2の9(被告の大阪店の大橋弘幸が作成した聴取報告書)に、寺内株式会社の営業第四セクションのマネージャー大久保高男が大橋に対して供述したと記載されている内容は、真実大久保が供述したものであるかどうかを尋ねて回答を求めるものである。

右「事実確認願(一)」の部分は、格別不法行為を構成するものとはいえないが、「事実確認願(二)」の前半部分は、被告の使用している表示は客観的には出所地及び品質の誤認表示には該当しないのにこれに該当する旨被告の取引先に対し陳述したものであって、被告の営業上の信用を害するものであるから、原告西森は、不正競争防止法一条一項六号、一条の二第一項に基づき、被告が被った損害を賠償すべき義務あるといわなければならない。

3  被告は、原告西森の不法行為により、別表(二)記載のように前年に比較して合計二六九〇万二一八〇円売上げが減少し、これと同額の損害を被り、また、被告の得意先に対する信用は失墜し、その損害は少なくとも三〇〇〇万円を下らず、更に損害は拡大しているが、本件訴訟では右合計五六九〇万二一八〇円の限度で賠償を請求すると主張するが、右1の不法行為と相当因果関係にある損害としては一〇〇万円、右2(二)の不法行為と相当因果関係にある損害としては二〇万円と認めるのが相当であり、これを超える分は相当因果関係があるものとは認められない。

第六  結論

以上によれば、原告らの被告に対する本訴請求及び被告の原告西森に対する反訴請求についての結論は、次のとおりになる。

一  原告らの被告に対する損害賠償請求(原告らの申立て第1項~第3項)は、原告ハンドハウスにおいて一〇〇万円、原告ケンアンドロンにおいて一〇〇万円及び原告西森において二〇〇万円、並びに右各金員に対する不法行為の後の日である平成二年一一月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は理由がない。

二  原告らの別紙(七)記載の内容の謝罪広告の掲載を求める請求(同第4項)は、本件においては右損害賠償の外に謝罪広告の掲載をする必要があるものとは認められないから、理由がないというべきである。

三  被告に対し、その製造販売するぬいぐるみに本件織ネーム及び本件下げ札を使用することの差止めを求める請求(同第5項)及び本件織ネーム及び本件下げ札の撤去、廃棄を求める請求(第6項)は、理由がない。

四  原告両会社の別紙(八)の誹謗事実目録記載の内容の陳述の差止めを求める請求(同第7項)のうち、同目録第一項記載の内容を被告が陳述し、又は将来そのおそれがあると認めるに足りる証拠はなく、第二項記載の内容を被告が将来陳述するおそれがあると認めるに足りる証拠はないから、これらの陳述の差止めを求める請求は理由がない。第三項については、本件における被告の主張に照らし、被告は将来も同項記載の内容を陳述するおそれがあるものと認められ、かつ、原告ハンドハウス及び原告ケンアンドロンによるゴリラのぬいぐるみ(原告商品ゴリラ)及び犬のぬいぐるみ(原告商品ブルドッグ)の販売は不正競争防止法に違反している旨陳述する行為は、原告両会社の営業上の信用を害する虚偽の事実の陳述に該当するから、その陳述の差止めを求める請求は理由がある。

五  被告の原告西森に対する反訴請求は、一二〇万円及び内金一〇〇万円に対する平成三年一一月一九日から、内金二〇万円に対する平成五年五月一七日(寺内株式会社が乙第三八号証を受け取った日)から、各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は理由がない。

六  よって、仮執行の宣言につき民訴法一九六条を、訴訟費用の負担につき八九条、九二条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 本吉弘行 裁判官小澤一郎は転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 水野武)

別紙(一)

〈省略〉

別紙(二)

〈省略〉

別紙(三)

〈省略〉

別紙(四)

〈省略〉

別紙(五)

〈省略〉

別紙(六)

〈省略〉

謝罪文

当社は貴社ら三名を、貴社二社が販売したゴリラとブルドックのぬいぐるみについて、当社の販売する商品と類似していることを理由に不正競争防止法違反の容疑で大阪府警に告訴致しましたが、貴社ら三名には同法違反の事実はなく、多大の御迷惑をお掛け致しましたこと、お詫び申し上げます。

東京都荒川区東尾久六丁目四三番二号

株式会社ファースト

代表取締役 関口豊一

ハンドハウス株式会社

代表取締役 西森進殿

株式会社ケンアンドロン

代表取締役 西森進殿

別紙(七)

西森進殿

誹謗事実目録

一. ハンドハウス株式会社及び株式会社ケンアンドロンは一発屋的ブローカー企業で、ぬいぐるみ業界で認知されていない、信頼性のない企業で、その製品も粗悪品であり品質が保証されていない。

二. ハンドハウス株式会社及び株式会社ケンアンドロンの販売するゴリラ(DW五一六)・スネ犬(KS一二)のぬいぐるみは株式会社ファーストの意匠権を侵害している。

三. ハンドハウス株式会社及び株式会社ケンアンドロンの前項記載のゴリラ・スネ犬の販売は不正競争防止法に違反しており、刑事告訴をした。

別紙(八)

別表(一)

日時 得意先 担当者

平成三年三月四日 ダイエー 本部 大道バイヤー

平成三年三月七日 エトワール 商品部 滝沢部長

平成三年四月一六日 高島屋 日本橋 池沢課長

平成三年四月一六日 高島屋 横浜店 小酒部部長

平成三年四月一六日 高島屋 玉川 小酒部部長

平成三年四月一六日 高島屋 港南台 小酒部部長 指示

平成三年四月二〇日 そごう 有楽町 新田部長

平成三年四月二二日 そごう 八王子 深沢課長

平成三年四月二三日 西武 商品部 池田課長

平成三年六月五日 そごう 船橋 植松店次長

平成三年六月五日 ハローマック 本部 草薙部長

平成三年六月五日 東武 池袋 橋本部長

平成三年六月七日 京王 新宿 熊田課長

平成三年六月二四日 そごう 横浜 宮内課長

平成三年六月二四日 イトーヨーカ堂 住居事業部 飯田部長

平成三年六月二五日 西友 本部 田口課長

平成三年六月二七日 三越 商品部 上野課長

平成三年七月二日 東京大丸 高浜部長

平成三年七月四日 忠実屋 事業部 古宮山部長

平成三年一〇月七日 近鉄百貨店 大阪店 瓜生課長

平成三年一〇月一〇日 大丸 大阪店 吉田部長

平成三年一〇月一二日 高島屋 商品本部 中西次長

平成三年一〇月二三日 名鉄 水口課長

平成三年一〇月二七日 川越丸広 飯島バイヤー

別表 (二)

店舗 前年(平成二年) 本年(平成三年) 売上減

1、高島屋 大阪店 七、〇五九、六八〇 一、四九一、三四〇 五、五六八、三四〇

2、高島屋 泉北店 五、〇三〇、三〇〇 二、九六二、五四〇 二、〇六七、七六〇

3、そごう 大阪店 二、七三六、八二一 ▲二、七〇〇 二、七三九、五二一

4、そごう 神戸店 九、八二三、九九五 五、二二九、五七九 四、五九四、四一六

5、大丸 神戸店 四、六八六、七〇〇 一、九八〇、九六〇 二、七〇五、七四〇

6、大丸 須磨店 九六四、三三三 五九、九三〇 九〇四、四〇三

7、高島屋 日本橋店、横浜店、玉川店、港南台店、立川店、大宮店

八、四八三、〇〇〇 一六一、〇〇〇 八、三二二、〇〇〇

合計 三八、七八四、八二九 一一、八八二、六四九 二六、九〇二、一八〇

別表(G) 先発他社ゴリラ製品.刊行物掲載のゴリラとキングの共通点

〈1〉○…構成態様が同一又は類似〈2〉△…微差しかし構成態様が同一又は類似 平成三年九月二日の準備書面 第二、一、1、でファーストが強調している.キングの重点各部分 甲第九七号証ノ(三)〈C〉〈H〉甲第九七号証ノ(四)〈1〉〈2〉(株)つるや人形 甲第九七号証ノ(二)〈2〉プレーネ(株) 甲第九七号証ノ(二)〈1〉(株)ゆり工房 甲第九七号証ノ(三)〈E〉〈F〉グンゼ産業(株) 甲第九七号証ノ(三)〈A〉〈B〉三英貿易(株) 甲第九七号証ノ(三)〈D〉甲第九七号証ノ(五)〈1〉〈2〉〈3〉〈4〉サン・アロー(株) 甲第九七号証ノ(一)(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)刊行物記載の実存ゴリラ

全体的形態は座り形状 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

販売開始日昭和六二、十月初め 昭和六〇年頃 昭和六一、七、二五 昭和六一、十、二五 昭和六一、十一、五 昭和六二、三月 昭和六二、六、五 常時観察可

宣伝回数 横約四センチメートル 縱約五センチメートル 一回 五九 六 一 十一 三 十六 常時

イ 頭部 先端かやゝ先細りの二段差○ △ ○ ○ ○ ○ ○

ロ マユ 太く大きすぎるマユ ○ ○ ○ ○ ○ △ ○

ハ 鼻 開いて天井を向いてる鼻 ○ ○ ○ ○ ○ △ ○

ニ 口 への字に結んだ口 ○ ○ ○ ○ ○ ○

ホ アゴ 胴体におおいかぶつたアゴ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

ヘ 肩首 首はないイカリ肩 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

ト 手腕 リアル的で自由にポズがとれる長い腕手 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

チ 足 内側に向ソに足 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

リ 背中 肩幅の広いにくましい背中 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

ヌ お尻 安定感のあるドフシリーにお尻 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

別表Gノ(二) (株)ファーストのキングとキングコングのロボット及フるや人形の立型ゴリラ共通点相違点一覧表

〈1〉○…構成態様が同一又は類似〈2〉△…微差しかし構成態様が類似〈3〉×…相違〈4〉キングの意匠出願日…昭和六十二年七月七日

(株)ファーストが強調しているキングの重点各部分 (8) 号製品 甲第97号証、(三)〈H〉〈1〉〈2〉及追加として向って左側掲載の立型ゴリラを〈5〉とする.(昭和62年3月10日のファンシーショップに掲載甲第40号証)つるや人形立型ゴリラ (9) 号製品 昭和59年6月の東京おもらやショーに出展し、その記事及形態が昭和59年ヶ月5日の旬刊ファンシーに掲載された(株)ココロのキングコング(甲第130号証〈1〉)

全体的形態は座り形状 ○ ○

イ 頭部 先端がやゝ先細りの二段差りある頭部 ○ ○

ロ マユ 太く大きすぎるマユ ○ ○ 現物は薄く急カーブーたマユ × △

ハ 鼻 開いて天井と向いている鼻 ○ ○

ニ 口 への字に結んだ口 ○ △

ホ アゴ 胴体におおいかぶさつにアゴ ○ ○

ヘ 首肩 首はない。いかり肩 ○ ○

ト 腕手 リアルで自由にポーズがとれる長い腕手 ○ ○

チ 足 内側に向いた足 ○ ○

リ 背中 肩巾の広いたくましい背中 ○ ○

ヌ お尻 安定感のあるドッシリとしに尻 ○ ○

ル 眼 浮目で間隔の広い大きな眼 × △

オ 耳 小さい耳 △ ○

ワ 外観色彩 赤系ブラウン ○ ×

カ 配色 外観色彩とまゆげ、口との配色 ○ ×

別表(S) ブルブルと(株)ロンのスネブルの共通点

昭57年に商標登録

〈1〉○……〈1〉○構成態様が同一又は類似〈2〉△微差しかし構成態様が同一又は類似 (株)ロンのスネブル (株)ケンアンドロンの敷物マワト

平成三年九月二日の準備書面第二.一.2.でファースト外強調しているブルブルの重点各部分 甲第八八号証1(一)(4)(5)(6) 甲第八八号証1(一)(1)(2)

甲第八七号証(1)(2)(3) 甲第一二五号証1(二)〈12〉〈13〉

全体的形熊は伏せ形状(安定感のある) ○ 座リ的立ラ形状 ○ 座リ的立ラ形状

イ 目 黒い目玉のまわりに白い円周のある眼 ○ ○ ○ ○

ロ マブタ 眼のまわりにある ○ ○ △ ○

マユゲ 八の字のマユゲ ○ ○ ○ ○

ハ 鼻 口エラの上に位置しに鼻(色は無関係) ○色は意匠に無関係 ○ ○ ○

ニ 口 大きくふくらんに口二重の口エラ ○ ○ ○ ○ (4)(5)は二重構成 一重 (1)(2)は二重構成 一重

ホ 舌 赤い小ちい舌 ○ ○ ○ ○

ヘ 耳 長い耳 ○ ○ ○ ○

ト 足 地面にすり寄った平にい足 ○ 座リ的立ラ形状 ○ 座リ的立ラ形状

チ 尾 後方に位置しに尾 ○ ○ ○ 敷物マットにつるなし

リ リボン リボンブームで周・公知のデザイン・模様のリボン ○形状模様は多少異なるが時代感覚の相違 △装飾物あり △ 敷物マットにつるなし

下アゴ 張った下アゴ ○首の上かう糸で引いている。引かないと張る △ ○糸で引からい張っにアゴ △

別表(S)ノ(二) 先行意匠の容貌構成及全体的形態とブルブルとの共通点一覽表

〈1〉 ○構成態様が同一又は類似〈2〉 △微差的相違点

ファーストのブルブル 他社の先行意匠 (1) 甲第98号証ノ(一)ユージンのブルドッグ (2) 甲第98号証ノ(一)セキグチのブルドッグ (3) 甲第98号証ノ(一)マイケルペッワ (4) 甲第97号証ノ(三)(H)甲第97号証ノ(四)(I)乙第20号証ノ(三)つるや人形のブルドッグ (5) 甲第101号証〈42〉麻布のブルドッグ (6) 甲第41号証 愛犬の友 1987.1月号甲第41号証 愛犬の友 4月号付録実存のブルドッグ (7) 甲第98号証ノ(二)〈1〉乙第20号証ノ〈10〉甲第101号証〈31〉サンアンドスターの犬甲第101号証〈36〉下段のペルシャネコ甲第101号証〈37〉伏せたヒヨラ甲第101号証〈40〉下段ヒヨラ

全体的形状は伏せ形状 座リ 座リ 座リ 座リ 座リ 座リ伏セ ○

イ 目 黒い目玉のまわりに白い円周のある眼 ○ ○ ○ ○ ○ ○

ロ マブタ 眼のまわりにある ○ ○ ○ ○ ○ ○ マユゲ 八の字のマユゲ ○ ○ ○ ○ ○ ○

ハ 鼻 口エラの上に位置しに鼻 ○ ○ ○ ○ ○ ○

ニ 口 大きくふくらんだ口 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 二重の口エラ ○ ○ ○ ○ ○ ○

ホ 下アゴ 上にそゝり立った下アゴ ○ ○ ○ ○ ○ ○

ヘ 舌 赤い小ちい舌 △ △ △ △ △ △

ト 耳 長い耳 △ △ △ △ △ △

販売動機 映画又はマイケルジヤクソンの耒日甲第九八号証ノ(一) 同上 同上 同上 同上

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